企画用
□Stand By Me
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―リザ・ホークアイ
初めて彼のマンションの部屋へ行った時の事だ。
彼の部屋はダーク系の落ち着いた色合いでまとめられていて、家具も少なく、非常にシンプルでセンスが良かった。
間接照明の落ち着いた明かりが、高揚した気持ちを幾分か和らげてくれる。
「どうぞ、ゆっくりしてくれ。…そこにでも座って。」
彼は、低いゆっくりとした口調で黒い革のローソファーを指差してキッチンへ消えた。
「…失礼します…。」
小声でそう言いながら腰をおろす。
ローソファーとは、なんとなく気恥ずかしいものだ。
普通のソファーより床に近い分、部屋と自分の距離を近く感じる。つまりはこの部屋の主との距離も近く感じるということだ。
何となく身の置場を探しつつ、柔らかなソファーの背もたれに寄り掛かる。
ふぅ。と一息ついて、辺りを見渡すと、そこで気がついたのが、ここの部屋にはテレビが無いという事だった。
と、そこで彼が顔を出す。
「なんだか緊張するな。」
彼はらしくない台詞と、ぎこちない笑みを浮かべてそう呟いた。
私は何を言うのか、と私は思って笑顔をつくる。
女性を部屋にあげる事など、彼にとっては珍しい事ではないのではないだろうか?
出会ったばかりで彼の事は殆ど知らないも同然だが、彼の私への振る舞いはいつもとてもスマートで紳士で熟練されていた。悪く言えば馴れている、…とそんなひねくれた考えをもってしまっても仕方はあるまい。
それでなくても、こんな素敵な男性を世の女性がほうっておくものか。
彼は私の為につくったモスコミュールの細長いグラスをテーブルに置く。
きちんときれいに切ったライムがグラスの淵に飾られていて、さっきまで店で飲んでいた時の雰囲気が少しも損なわれない。
「私の方が緊張しています。こういう経験はあまり無いので。」
恋愛経験の少なさをあえて隠す必要もあるまい。
それでなくても彼の一挙一動にドキドキして平静さを保っているのが難しいのだから。
そう言うと、彼は笑った。
「本当だったら、本気で嬉しいね。」
「もちろん本当です。」
「君みたいな美人が?」
「…美人かどうかはわかりませんが…。堅物なんです。」
「堅物?」
「融通が利かないんです。男の人はきっと私みたいなのは窮屈なんだろうと思います。」
「君は自分の事をわかってないな。」
「そうですか?」
「男にとっては高嶺の花だよ。君みたいな人は。」
「…っ。おっおだてないでください。」
「正直に言っただけだよ。」
彼はサラリとそう言った。
思わず赤面してしまう。
これがプレイボーイのやり方だろうか…?
彼は自分の飲み物をテーブルに置くと、私の顔を見て何故か苦笑いをする。少し彼の顔も赤いように思えるのは、私の希望的観測だろうか。
きっと彼も少し酔っているのだ。
「この部屋に女性を招くのは初めてなんだ。なんだかこっちも身の置き場に困るな。」