企画用

□君の気持ちなんてとっくに知ってる
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秋の風吹く今日この頃。

街路樹が良い色になり、落ち葉を踏むとかしゃりと気味の良い音と感触を感じる。

晴れた空も清々しく、視察に歩く足もついつい散歩調になってしまう。

「なぁ。中尉。」

今日は彼女を食事にどうやって誘おうかと考えあぐねている。

私の斜め後ろを歩く彼女に声をかける。

「何ですか?」

普通に誘ったのでは断られるのは目に見えている。

仕事を絡ませて誘うのが良いだろうか?

今度の演習の内容について、予算と武器と弾薬と火薬の量について…

色気も素っ気も無いな。
もっとマシな誘い方は…

呼んでおいて言葉を濁す私を、彼女は不思議そうに見つめている。

そして彼女は自信たっぷりに言った。

「貴方の気持ちなんてとっくに知ってますよ。」

「…え?」

少なからず動揺した私は立ち止まる。

彼女も歩みを止めて、私の反応を見る。

「午後はどこかに隠れて昼寝でもしたい。と思っているんでしょう?」

見透かしたような言い方をする。
確かに昼寝するには良い陽気だ。

「思ってない!」

「…駄目ですよ。帰ったら書類がたくさん待ってますから。」

「だから思ってないと言ってるだろう。」

「…そうですか。失礼しました。」

「私の本当の気持ちを教えてやろうか。」

「…はい。」

「君と一緒に食事でもしたいなと思ってね。」

「…ランチですか?」

「いいや、ディナーだ。どうかね?」

彼女は少し考え込むようにして自分の耳たぶを触った。

私はこうも言ってみる。

「君の気持ちなんてとっくに知ってるよ。」

なんて嘘だよ。だって君は今自分の気持ちさえも決めかねている。

「…なんですか?」

「報われない中間管理職。いつも上の奴らと部下の板挟み。苦労ばかりして神経を擦り減らしている気の毒な上司に、たまには付き合ってやろうかな。と考えている。…どうだね?」

彼女は思わず笑って返す。

「そんなに苦労していたとは知りませんでした。」

「知らなかったかい?君とあろう人が。」

私は彼女の『また適当な嘘をついて。』とでも言いたげな瞳を覗き込む。

「…ディナーに付き合ってくれる気になったかい?」

「…そうですね。たまには気晴らしも必要かもしれませんね。」

彼女は私の方便に乗っかって、仕方なさそうに頷いた。



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