短編小説
□それだけの事
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執務室にて。
大佐より早く部屋に入り窓を開けて空気を入れ換え、机と棚を一通り拭く。
大佐の机の上に書類等を並べて、愛用の万年筆のインクの出具合をチェックした。
すべてがいつも通り。
珈琲を淹れる為のお湯が沸く頃、大佐がドアを開けた。
「お早うございます。」
「ああ。お早う。」
大佐は席に着きフゥと一息付くと、机に置いてある書類を嫌そうにペラペラとめくる。
淹れたての珈琲を机に置くと、大佐は満足げに少し頷いた。
「大佐。今朝、――・――という方から、これを大佐に渡して欲しいと頼まれました。
一緒に手紙も入っているそうです。」
私はそう言って、例の紙袋を大佐に差し出す。
しかし大佐はその紙袋を見もせずに言った。
「そこに置いておいてくれ。」
私はその態度に釈然としないものを感じつつ、一段落ついたらゆっくり開けるのだろうと大佐の机の端に置いておいた。
…しかし。
待てど暮らせど、大佐はその紙袋に触れようともしない。
窓から入る陽が少しずつずれて、紙袋に当たり始めると、私はヤキモキし始める。
中身は食べ物だ。
あまり陽に当たっていては痛んでしまうかもしれない。
「大佐。…その紙袋の中身は手作りのクッキーだと言っていましたよ。」
何かのついでに、今思い出したかの様にそう言ってみる。