□第四十一診察〜謎の女
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「…まったく、君って人はいつもいつも懲りないね!!」

「痛たたたたたた!!耳引っ張るなよ半兵衛ぇ〜」

中庭へ続く小道を2人の男が歩く――否、一方は引き摺られている。
普段は患者がのんびりと散歩するそこは、今や騒がしい場所でしかない。

「引っ張って欲しくなければ、病室で大人しくしていることだね」

「いや、それはムリ……痛だだだだだだぁっ!!」

いつも通りの光景に、患者達は不快感を示すわけでなく、寧ろ温かい目で見守っている。
何度目か分からない脱走に失敗した慶次は、いつも通り竹中看護士に連れ戻されたのだった。









† † †

「慶次くん、次やったら不二先生に……あれ、慶次くん?」

隣を歩いていた慶次がいない。まさか、と思い半兵衛は慌てて後ろを振り返った。

だが予想に反して慶次はそこにいた。ほっと一息ついた半兵衛は慶次のもとへ歩み寄った。

が。

慶次の隣には黒髪の女性がいた。馴れ馴れしく話す彼を見た瞬間だった。ピキリ、と半兵衛の額に青筋が浮かんだ。


「け い じ く ん?」

「げっ、半兵衛!!」

「何してるんだい?」

「い、いやぁ何でもないって」

「そのうろたえ方…まさかナンパしようとしてた訳じゃないよね?」

「…ナンパ?市をナンパするの…?」


ポツリ、

黒髪の女性の呟きにも似た声が、静かなエレベーターホールに吸い込まれた。


「い、いやぁそういう訳じゃあ……」

「いいの、あなたが悪いんじゃないわ…」


そのままフラリ、とよろめく様に背を向け歩き去った女性。彼女の後ろ姿を、2人は呆然と見詰めていた。




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