捧げ物・宝物

□怪我の功名?
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初夏のある日。

奥州もようやく梅雨から明け、綺麗な晴天が広がる。

片倉小十郎は上機嫌で歩いていた。
それは勿論彼の育てている野菜が元気だったからに他ならないのだが。

とにかく上機嫌で、主の部屋へと向かった小十郎は、襖の前でハタと立ち止まった。

驚く程に静かだった。
かなり熱中して政務をしている…のならいいのだが、何せ血気盛んな主のことだ。
政務を投げ出し、城下でレッツパーリィなんてことが常である。

若しくは、最悪の場合、慣れない机仕事に疲労が溜まり倒れてしまった、なんてことも無きにしも非ずだ。

いずれにせよ…そう思い小十郎は眉間に皺を寄せたまま襖に手をかけた。


「政宗様、如何なされましたか?」

返事はない。
ついでに言うと、政務をしているならば聞こえる筈の、紙の音も聞こえない。

コレはマズい。
小十郎は慌てて襖を開けた。

「政宗様、失礼しま……うおぉおっ!?」


予想に反して、主は机の前にいた。
だが、小十郎が間抜けな叫びをあげた理由は、そんな事ではない。


彼の主、伊達政宗は、真っ白に燃え尽きて風化していた。

「ま、政宗様ぁあぁあぁあ!?お気を確かにぃいぃいっ!!」

ガックガックと肩を揺さぶると、政宗の虚ろな目が小十郎を認識した。


「Oh…小十郎か…」
「政宗様!!如何なされましたか!?」

政宗は薄く笑うと、再び視線を遠くした。

「ハハッ…小十郎…俺、もう生きてけねぇよ…」

遠い目のまま、自嘲気味に呟く政宗。




「ま、政宗様、もしや真田と何か…」



言った瞬間、まさか、と思い小十郎は主の机を物色する。


政に関する書類の山から出て来たのは、先程届いたらしい、一通の文だった。


「…やはりか」


そこには、決して達筆とはいえない字で、こう記されていた。













『単刀直入に申し上げます。
申し訳有りませぬが、暫く奥州の地に行くことは有りませぬ。







某と、暫く会わないで下され。


真田源次郎幸村』










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