短いの

□青
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アジトの近くの草原に寝転んで何をするわけでもなく空を見上げていた。
S級犯罪者の居所という畏怖の印象を持たせる場所の近くでも、ここは他里と変わらず穏やかだった。



風が凪ぎ茶色の髪を揺らして飛ばす。
ああ、くそぅ。髪が口の中に入ったじゃないか。


左手で髪の毛を撤去して再度空を見上げる。
広い空は何処までも青く澄んでいてあいつの瞳を彷彿とさせる。
右手を空に翳せば届きそうで、むしろこの腕一本で落ちてきた青色を支えているような錯覚に陥った。

こうやってあいつも掴めたらいい。
近くに居るのに触れられない距離が酷くもどかしい。いっその事こんな感情捨ててしまえれば楽なのに。
いくら忍になる為に心を捨てたと言っても人間を捨てれる訳じゃない。人は人を愛さずにはいられないのだよ。



ふっと影が落ちた。
逆光で顔が見えないが、例え声を聞かなくてもその素晴らしいシルエットで誰か分かってしまう。
それ程に奴を見てきた、というよりは奴いわくの芸術的丁髷が見えるから。
おお、普段から思ってたけど垂れ下がった髷がより一層バナナにしか見えないよ。



「何してんだよ。」


「おお、デイダラちゃん。外套の中が丸見えですぜ。ナイスアングル!」


「おまっ、何処のオヤジだよ!っつか普通女が言う台詞か?」


「んー?おや、こんな所にもバナナが…」


「だぁぁぁあ!!!だから何処のオヤジだっつーんだよ!っつーか”も”って他は何処にあんだよ!うん!」


「頭。」


「これは芸術だあああ!!!」


「デイに爆発以外の芸術があったんだな。」


「この野郎!」


「あだぁぁぁあ!!!;;」



デイダラをからかうのは非常に面白い。
地団駄を踏むデイダラにほくそ笑んだら掲げていた右手の指を手の平の口で思い切り囓られた。
慌てて引っこ抜いた手には可哀相な程くっきりと歯形が付いていた。この野郎、涙が出る位痛いじゃないか。
恨みがましく睨み付ければほくそ笑むデイダラの姿。畜生!



「さ、茶番は此処までにして帰るぞ、うん。」


「何処に?」


「とりあえずアジトに。旦那も居るし、起爆粘土も補充しねぇとな、うん。」



そう言って歩き出すデイダラの後ろ姿を暫く見た後空に視線を移す。
ゆったりと動く雲と自分が重なって見えて酷く滑稽に思えた。
空と雲のように決して交わらない平行線、それが私達だ。



「おい。置いてくぞー。」


「デーイ。」


「何だー?うん。」


「ダルイ。動けない。」


「………。」



いつの間にか随分と遠くに行ってしまったらしいデイダラに呼ばれたが視線は寄越さずに最低限聞こえる位に声を張って本音を漏らした。忍だから当然聞こえるだろう。
その証拠に心底飽きれたような雰囲気と視線が返ってきた。



「デーイダラーぁ。」


「あ゙ぁぁあ!もう!!」



再度呼び掛けると苛立ちの奇声が上がり、次いでずんずんと足音荒く近付いてきた。
ほら、どんなに馬鹿な事を言っても最後には聞き入れてくれるんだ。
残酷で残忍で、プライドが高くて芸術しか言わない偏屈でS級犯罪者として怖れられているけど本当は内緒で飼ってた小鳥が死んだ時一人密かに泣くような優しい君が、私は好きなんだよ。



「……だけどもこれは戴けないなぁ。」


「あ゙!?運んでやってんだから文句言うな!っつーか文章おかしくて会話繋がってねぇよ!うん!」



ふわっとした浮遊感の後に見えたのは広がる青と緑の地平線。視界の端にはバナナ…黄色い丁髷。肩に腹部に当たって非常に痛いし気持ち悪い。
所詮俵担ぎというもの。



「デイダラ君よ、女性相手にこれはないんじゃないのかい?モテないだろ、お前。」


「お前なんか女じゃねぇ!っつかお前よりモテるっつーの!」



溜息を吐けば勢いよく吐き出される悪態。
女に見られてないのは分かり切った事。

なのに眉間に皺が寄るのは何故だろうか、心が痛むのは何故だろうか。

見えた青が酷く目に痛かった。









(幸せの色、そして残酷の象徴。)












20100728

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