短いの

□テーマ→煙草
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現パロ。









昔、煙草はかっこいい物だと思っていた。

小さい頃お父さんが吸っているのを見ていた時も、未成年の同級生が隠れて吸いはじめた時も、年上の先輩が吸っていた時も、何故か物凄く格好良く思えてどんな訳か憧れを抱いていた。
一度でいいから吸ってみたくて早く大人にならないかとまだ若かった私は待ち望んでいたのを今でも覚えている。

でもいざ成人して吸ってみるとたいした事は無かった。
マールボロのメンソール。至って普通の極一般的な煙草。
真新しい箱を開けてたどたどしく一本つまみ出し火を着けて一口。
するとどうだろう、吸い込んだ紫煙は簡単に肺の中に入り込み、大して満たした感覚は無く吐き出された。
吸い方が悪かったのか?今のが蒸しただけってやつか?そう思って深く吸い込んでみたがやはり先程と変わらず、ただ苦い後味だけが残った。

途端、煙草を吸うのが物凄く格好悪い事に思えた。

それでも頑張って慣れるように一週間吸い続けて、やめた。
詰まらなかった。只この一言に尽きる。
あんなに格好良く思えて憧れだった、煙草=大人、みたいなイメージは簡単に崩れ去った。

煙草を吸ったって全て煙りに変わるし、体調は崩すし、口はヤニで汚れる、おまけに口臭は臭くなるしでいい事など何一つ無かった。何も残る物は無かった。
残ったのは煙草の残骸と鼻の奥に残る煙草の香りと多少の依存症。



それから何年経ったか、依存症は消えたがたまに吸いたくなる。
それはこんな風に誰も居ない月明かりの夜だったり、暇を感じる昼間だったり。
何処か感じる寂しさを埋めるかのように私は紫煙を燻らせた。
一ヶ月に一回あるか無いかの行為。そう、本当にたまにだから依存症ではない…と、思う。



小さくなった煙草を最後に一口吸ってから揉み消した。
換気の為窓を開け、煙草を水に付けて完全に鎮火してティッシュに包んでごみ箱へ。灰皿は綺麗洗って元の場所へ。最後はいつもより少し念入りに歯磨き。人に煙草臭いと言われるのは嫌だもの。
最後に飴を舐めてから窓を閉める。
一連の動作は彼に喫煙を悟られないようにする為のもの。(私は煙草が苦手という事にしてあるから。)

直後、ガチャガチャと音がして彼が帰ってきたのを確認。飴を噛み砕いてからお出迎え。



「お帰り、サソリ。」


「ああ。」



夜でも良く分かる赤髪が怠そうに揺れる。
私の横を摺り抜けてソファーにどかりと座り込んで煙草を取り出して火を着ける。
ふぅー、と吐き出す仕種が妙にセクシーに見えて顔が良いって得だな、何て思った。



「ちょっとサソリ、私の前で吸わないでよね。って言うかご飯の前に吸うな。」


「ああ、悪ぃ。」



ちっとも悪いなんて思ってないような返事を背後に作っておいたご飯を電子レンジへ。
でもさぁ、と言う声に適当に相槌。



「お前、煙草吸ってんだろ。」


「は?」



ピタリ、と動きが止まった。
何時からバレていた?私の処理は完璧だったはず。

私の所作を見てサソリはニヤリと笑った。



「お前何時も俺が家を出たら必ず換気してるだろ。だからいつもしない煙草の匂いが部屋に若干残ってる。部屋に居るお前は分からないだろうがな、外から帰ってきた俺には分かんだよ。それにいくら歯磨きしようがそれ以外の、そうだな、髪とかに匂いが着いてんだよ。若干だがな。ま、俺が夜遅い時にしか吸ってないみたいだがな。」



ほぼノンブレスで探偵の如く言い切ったサソリは灰を灰皿へと落とした。
成る程、確かに綺麗な空気を吸った後にこの部屋に入れば分かる。事実私も人様の家に行った時は同じ思いをして眉を潜めるものだ。
私の表情を見て推理が当たったのを確信したのか、サソリは満足気に煙草を吸った。



「でも金輪際煙草は吸わないから。」


「吸えばいいじゃねぇか。別に俺は気にしないぜ?」


「私が嫌なの。それに私妊娠したから。」


「は?誰の?」


「あんた以外誰が居るのよ。だからこれからサソリも私の前で煙草吸わないでね。」



ぽかん顔の間抜け面なサソリと、サソリが吸っていると格好良く見えてしまう煙草が妙にミスマッチで面白かった。



無駄な事はしない主義なの。




(おま、それ本当か?)
(本当よ。昼間産婦人科行ってきたもの。はい、診断書。)
(け、けけ、結婚するか?)
(どうせなら格好良くキメてよね。ってか何で疑問形なのよ、馬鹿。)







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煙草吸った感想は実際思った事です。一週間も吸いつづけてませんが。(笑)



2010418

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