短いの

□泣かないでアンタレス
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「ん…あれ…サソリ…?」




妙に冷たさを感じて意識が浮上した。
寝ぼけ半分に身じろぎしてみると隣に居る筈の人が居ない。そこでようやくちゃんと覚醒してぼやける目を擦って上半身を起こす。
部屋中を見渡してもこの部屋の主は見つからない。一体何処に行ったというのだ。外にでもいるというのか、こんな寒空の下に。傀儡だからと言っても核は生身。多少の変化はあるだろうに。
私は自分の考えに半信半疑で自分の体温でまだ暖かい布団から抜け出し窓を開ける。




「さむっ…。」




吐き出す息が白い程に外気は冷たかった。
アジトは森の中にあるから冷えやすいのだろう。女には優しくない立地だ。
眼下に広がるのは黒く変色した緑の森。
その中に一際目立つ赤色を見付けて予想が的中してしまった事に溜息を吐き、外套を羽織って下へと降りた。




「サソリ!」


「ん、ああ。起きたのか。」


「何してんの?」


「外出たくなったから出ただけだ。」




ふうんと返してサソリの横に座る。
普段はヒルコの中に篭りっぱなしで外には出ようとしないくせに、変な所で恣意的な男だ。

二人黙ってただ真っ暗な森を眺める。
何が楽しいという訳ではなく、かと言って何も楽しくないと言う訳でもない。外で本体のサソリと会うのはいつぶりだろう。私は久しぶりの二人の時間を満喫していた。

ふと隣のサソリを見ると月明かりに照らされ淡く光り輝いて見えた。
端正な顔立ちのサソリだ。普段なら見惚れてしまうのだが今日は何故か儚げに見えた。
幻想的で、魅惑的で、朧げで、そして何処か寂しそうな横顔。
今にも消えてしまいそうだった。
ぎゅっと握りしめたサソリの手は長い間外に居た為かいつもより冷えていた。私はその手を温めるように握り直した。サソリがこれ以上冷えないようにと。




「どうしたんだよ。」


「…別に。何でもないよ。」




そうかよと言って薄く笑う顔がやっぱり寂しそうで心がきゅっと締め付けらて、コテンと肩に頭を乗せればサソリは、甘えたがりめ。と言いながらも優しく頭を撫でてくれた。
好きだよ。と言ったら知ってる。と返される。自分の愛が相手に伝わっているんだという安堵感。更に深まるもっと幸せになって欲しいという欲求。例え幻覚でも、泣きそうな顔は見たくないから。




「サソリが誰よりも好きだよ。」


「さっきも聞いた。」


「私はサソリが必要だよ。」


「ん。」


「サソリ、生まれてきてくれて有難う。」


「……ん。」




私達は互いに親の顔をあまり知らない。
周りの人は私達を見て傷の舐め合いだと嘲笑うだろう。
けれどもそれでもいい。彼の祖母が、両親が与えきれなかった愛を私が代わりにサソリの寂しさを埋めてあげるのだ。
彼がもう二度と孤独にならないように、泣かないように、手を握り続ける。
誰が突き放しても、私が貴方を望んでいるよ。







泣かないでアンタレス
(涙も怒った顔も全て愛おしいけれど、やっぱり笑顔が1番好きなんです)
(流れないで。消えないで。どうか輝き続けて。)








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20101108HAPPY BIRTHDAY旦那!!
自傷青年/劉

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