短いの

□茜
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(……何か…馬鹿だな…私。)


結局チョコは無駄になってしまった。
ここに居ても何もならないと分かった以上長居しても仕方がない。帰ろうと立ち上がろうとした時、


「何してんだい?うん?」


見付かった。見付かってしまった。このクラスの人間ならまだしも先程まで考えていた人、失恋した相手にだ。
目線を上げればキラキラと輝く金色の髪と透き通るような青い瞳。私は膨大に膨れ上がった不安と焦燥で返事を返せず、ただ口をどもつかせるだけに終わった。
彼は金魚みてぇだ、と小さくクスクスと笑った後汚れるからという理由で私の手を取って立たせてくれた。初めて彼に触れた。
私がしばしの感動を覚えていると彼が先程の疑問をもう一度投げかけてきた。正直に忘れて欲しかった。


「あのね、友達がこのクラスに居てその友達のノートを取りに来たの。ここのクラスの方が授業進んでるから予習に使おうと思って。」


立派な嘘だ。私は隣町から来たから知っている人はおらずこのクラスに友達なんか居ない。だがハイクラであるこのクラスの授業が進んでいるのは学年誰もが知っている事で彼も例外ではないはずだ。咄嗟に出た嘘にしては在り来りだが理に適ってるし噛まずに言えたのが素晴らしいと思う。人間窮地に立たされれば意外と出来るらしい。
彼はふーん、と納得したのか疑っているのか分からない声を出した。彼と話せないのは残念だがこれ以上喋ってボロが出てしまわない内に離れるのがベストだろう。じゃあね、と言って彼に背を向けた瞬間、また声を掛けられた。


「なぁ、それってチョコレートかい?」


「え?あ、うん。そうだよ。」


彼が『それ』と指を差した先を辿ると私の鞄からはみ出たチョコレートの入った箱。どうやら何かの拍子に飛び出てしまったらしい。内心軽く舌打ちをしながら平静を装い返す。


「今から誰かに渡しに行くのか?うん?」

「ううん、余ったやつなの。」

「へぇ、じゃあオイラにおくれよ。」


ん、と手を差し出す彼に初めはぽかんとしていたがはっと気が付き慌てて鞄からチョコレートを取り出して彼に渡す。誰もあげるとは言ってないんだが…彼は意外と自由人らしい。まあ、初めから彼に渡すつもりだったから構わないのだが。


「あ、手作りチョコだ。うん。」

「うん、美味しくなかったらごめんね。」


目の前でがさごそと開け始めた彼は複雑そうな表情を作る私を尻目に球体状に作られたチョコを一つつまんで口の中に放り込みそして、



「ん、んまいな。うん。」



と、にっと笑った。
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