長編集

□you are my …
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そんな理由があるので、神楽が突然「母の日」などと言い出したのも、恐らく新八が少しでも元気になるようにと思っての事だろう。
夕食を終えて、カチャカチャと皿を洗いながら台所に立つ新八に声をかける。

「なぁ、新八」
「わっ!びっくりした!…何ですか?甘い物なら駄目ですよ!」

新八は突然名前を呼ばれて驚いたようで、一度チラリとこちらを見たが、すぐに洗い物に目を戻すと、俺が甘味を狙っていると決めつけて面倒臭そうに言葉を返してきた。

「ちげーよ!違くて、あー…明日だけどさ」
「…っ、あ…した?」
「?」

突然ピクッと肩を揺らして手を止めた新八に疑問符を浮かべて側へ近寄ると、後ろから顔を覗き込む。

「新八?」
「っあ、す、すいません、何ですか?」

取り繕うように笑う新八を心配して、ジッと目を見つめると気まずそうにそらされてしまった。

「ちょっと、ボーッとしてました…で、明日がどうしたんですか?」
「あー、いや神楽がよ、明日は新八の日だからなんかしようって」
「僕の…日?誕生日じゃないですよ?」
「いや…だから、アレだよアレ、母の日?」
「母の日?」
「神楽にとっちゃ、地球での母ちゃんなんだろ、お前は」
「……」
「おい、新八?」

無言で俯いてしまった新八に焦る。いくら炊事洗濯を当たり前のようにこなしてしまう新八でも、実際は16歳男子、母ちゃんのようだと言われて気分を悪くしたかもしれない。そんな事を考えて嫌な汗をかいていると、俯いたままの新八が口を開いた。

「じゃあ、銀さんは…父親ですかね?」
「ん?…あぁ、そんな事言ってたな」
「じゃあ…」

言葉を切って顔を上げた新八に息を飲む。

「本当に家族みたいですね」

そう言って心底嬉しそうに笑うもんだから、思わず抱き締めそうになった。久しぶりの笑顔に自然、俺も頬が緩んで笑みがこぼれる。抱き締めかけて宙に浮いていた手をまん丸の頭に乗せて、ポンポンと撫でた。

「…銀さん?」
「んー?…で、どうするよ明日。明日は1日お前の言うこと聞いてやるんだってよ」
「え、いきなり言われても…」
「難しく考えなくて良いんだよ、新八が一番したい事で」
「…じゃあ、1日…一緒にいたいです」
「誰と?」
「銀さんと神楽ちゃんと定晴と」
「それじゃあいつもと変わんねぇだろーが」
「良いんです、それで…それが良いです」
「ふーん、まぁ、おめーが良いなら良いんだけどよ」
「はい」

新八の笑顔に上機嫌になった俺は、いそいそと居間に戻り、ちょうど風呂から出てきた神楽に新八の意向を伝えた。すると口を尖らせてつまらなそうな顔をする神楽。

「そんなんで良いアルか?」
「あぁ、それが良いんだってよ」
「…ふーん」
「大丈夫だよ、アイツ、嬉しそうだったから」
「…!なら良いネ!」

俺の声色から何かを感じ取ったのか、納得した様子の神楽はニシシと笑った。
洗い物を終えて、身仕度を整えた新八が玄関へ向かう。それにぞろぞろと2人と1匹が付いて行くと、眉をひそめて訝しげな視線を向けてくる。

「…何ですか?今日に限って、気持ち悪いですよ」
「ひでーなぁ、新八。我が家の母ちゃんを見送るのは当たり前だろ?」
「そうアル!今日は銀ちゃんが送ってやるから、夜道も安心ネ!」
「は?僕は大丈夫ですよ、それより神楽ちゃんを1人で残す方が…」
「私には定晴がいるから大丈夫ネ!」
「ワンッ!」
「でも…」
「はいはい、もー行くぞホラ」

未だ反論を続けようとする新八の腕を掴んで、強引に玄関を出る。すると慌てた様子で「ちゃんと鍵しめてね!知らない人が来ても開けちゃダメだからね!」と階段を下りながらも神楽に呼び掛けている。

(本当に、どこまで母ちゃんだよ)
「おい、ホラ」
「わわっ、あ、はい」

新八専用のメットを投げて、原チャに跨がり鍵をさす。後ろから回された腕と「良いですよ」の声を合図に、エンジンをかけると夜風をきって走り出した。
春とはいえ、夜はまだ肌寒く風が当たれば鳥肌が立つくらいだ。突然、新八がギュッと抱きつく力を強くしたのを感じて少し振り返る。

「寒いか?」
「…いえ」
「…どうした?」
「…何でも、ないです」
「……」

はっきりと答えない新八に不安はあるが、ここ最近の様子からすると、何か考えているのだろう。時期が来ればきっと話してくれる。今はただ見守る事しか出来ない自分が歯痒く情けなかった。

道場についても背中に額を押し付けたまま降りない新八に声をかける。

「新八?着いたぞ」
「っ…あ、はい」
「大丈夫か?」
「はい、ありがとうございました」
「なーに、気にすんなって、板チョコ10枚で良いからよ」
「銀さん?」
「っ、すいません、冗談です」

ニッコリ笑いながら鼻フック(略)のポーズを取る新八に青ざめながら後ずさる銀時。

(…ったく、こーゆー所は姉ちゃんにそっくりだなコノヤロー)

「なんですか?」
「なんでもねーよ、じゃあまた明日、な」
「はい、お休みなさい」
「おー、お休み」

くしゃりと頭を一撫でして、再びバイクを走らせた。



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