長編集

□you are my …
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川原に着くと、新八が何を秘密にしていたのかがすぐに分かった。そこには一面に色彩豊かな花が咲き乱れていた。

「すげーな…」
「でしょ?何て花かは知らないんですけど、綺麗ですよね」

ちょうど日が傾きかけて燃えるような夕焼けで川の水がキラキラと反射している。無言でその光景を見つめていると、ザァァっと風が吹いて思わず顔を背ける、そしてその視界の先に入った新八に釘付けになった。夕焼けで紅く染まった頬と静かに微笑む顔、風になびくサラサラの黒髪。
地味地味と言われているが、本当は姉に似て整った顔をしている。が、そんな事に気付いているのは世界で俺1人だけで良い。

知らず伸びていた手、指の間を黒髪がスルリと抜けていった。驚いたように振り向いた新八の目は真ん丸に見開かれている。

「新八…」
「っ…ぎんさ」
「銀ちゃーん!新八ぃー!」

名前を呼ぶ自分の声は、予想外に甘い色を含んでいた。夕焼けとは別に赤く染まった新八がそれに答えるか答えないかの内に、神楽の大声で遮られてしまった。お互いにハッとして、新八の頬に伸ばしかけていた手を引っ込めた。
緊張した空気を振り払うように神楽の方を向くと、ぴょんぴょん跳ねながら銀時達を手招いている。

「…行くか」
「あ、はい…」

お互いに顔を背けて、でも並んで神楽のいる方に歩いて行く。近づくうちに神楽が路肩にシートを敷いただけの簡単な露店の前に立っている事に気づいた。

「見るアル!とっても綺麗ネ!」
「アクセサリー屋さん?」

しゃがんで見ると、ネックレスやら指輪やらが手製の値札と共に並べられていた。新八がそのうちの1つを手に取って眺めていると、ニコニコと愛想の良さそうな店主が声をかけてきた。

「おっ、お兄さん目が効くねぇ、その先についてるの、天然石なんだよ」
「へぇ、天然石ですか、綺麗ですね」
「だろ?その石には石言葉ってのがあるんだよ」
「花言葉みたいな感じですか?」
「そうそう、それは確か『永遠の絆』ってんだったな」
「永遠の絆…」

新八はポツリと呟いてそのネックレスを眺めている。普段そういった装飾品にはさして興味が無さそうなので、珍しいなと思っていると、買わせる気満々の店主が値段交渉をしてきた。

「1つ1000円なんだけど、3つ買ってくれるんなら1つ700円にまけとくよ!」
「1000円!?たっけーなぁ、こんな石がそんなにすんのかよ」
「天然石だからね、で、どーする?」
「悪ぃけど、うちににはそんな余裕…」
「買います」
「え…しんぱ」
「よしきた!3つで良いかい?」
「えっと、4つ下さい」

一番答えない筈の声が発した台詞に唖然としている間に新八はさっさとそれを購入してしまった。ヒラヒラと笑顔で手を振る店主にぺこりとお辞儀をして歩き出した新八に慌てて駆け寄る。

「おいおい、どーゆう風の吹き回し?」
「たまには良いじゃないですか?こうゆうのも、大丈夫ですよ僕のお金ですから、はい、神楽ちゃんと、定春の分」
「キャッホー!新八太腿アル!」
「太っ腹ね」

雄叫びを挙げながら定春の方へ走っていった神楽にすかさずツッコム新八。そしてくるりと振り向くと、俺に向かって手をつきだす。

「はい、銀さんの分」
「お、おぉ」

取り合えず受け取って、それを眺めていると「迷惑ですか?」と声がして、視線を上げる。不安げに見つめてくる新八に思わず微笑むと、その頭をぐしゃぐしゃとかき回す。

「んな訳ねぇよ、ありがと」
「…良かった」

新八は安心したようにふわりと笑った。そして自分の分をつけようと後ろ手で金具を弄っているが中々出来ないらしく苦戦している。

「貸してみ」
「えっ、あ、はい」

サラサラの髪を分けて金具を留めると、頭にポンと手を乗せた。

「出来たぞ」
「…ありがとうございます」

振り向いて照れくさそうに笑う顔に愛しい気持ちが込み上げて、ゆっくり髪を撫でると、戸惑いを浮かべた黒い瞳に見つめられた。遠くで神楽の呼ぶ声がする。

「…よし、帰るか」
「…はい」



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