長編集

□you are my …
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「っ…さみぃ…」

朝方の妙な冷え込みに目が覚めてしまった。窓から漏れる明かりは薄暗く、まだ起きるには早い時間だと分かる。
天井を見つめたまま深く溜め息をつく。目が覚めた原因は寒さだけではなかった。久しぶりに夢を見たのだ、昔の、戦争時代の夢を。それは決して良い夢ではなく、かつて命を奪った相手や踏み越えてきた仲間達に責められ罵られ、心臓を鷲掴みにされるような辛い夢だった。

(久しぶりだ、新八が来てからは、滅多に見ることなかったのにな)

夢はいつも同じ所で醒める。真っ赤に染まった戦場で、1人ポツンと立つ自分。誰ともつかぬ声が聞こえる。(結局お前は何一つ守る事など出来ないんだ。見ろ、周りを、お前には何が残った?)その声は段々増えていき、押し潰されそうになった所で目を覚ます。

「ちっ、胸くそわりぃ…」

再び深く息を吐くと、安息を求めて新八の眠る布団へと目をやる。

その瞬間、どくんと跳ねる心臓。

銀時の目に写ったのは、綺麗に畳まれた布団だった。新八の姿はない。神楽は相変わらずスヤスヤと隣で眠っているが、嫌な予感が胸を支配する。

「しん、ぱち?」

呼ぶ自分の声は情けなくも震えていた。しかしそんな事を気にする余裕もなく、バッと布団から出ると襖を開く。台所にも厠にも、風呂にも押し入れにもどこにも新八の姿は無かった。混乱する頭で玄関の方を見つめていると、背後から蚊の鳴くような声で名前を呼ばれた。

「銀ちゃん」
「…神楽」
「これ…これ何アルか」

震える手が指差す先にあるのは一枚のメモ書き。銀時はすかさず手にすると並べられた文字に目を通す。


 ̄ ̄ ̄
突然の無礼を許して下さい。
僕は今日で万事屋を辞めさせていただきます。
もう、2人にはついて行けなくなりました。
僕は普通に仕事をして、普通に暮らしたいんです。
変わりはすぐに見つかると思います。
今までありがとうございました。
銀さん、神楽ちゃん、お元気で。

志村 新八
___


ドクドクと自分の心臓の響く音が聞こえる。(なんだよ、コレ)
考えるよりも先に体が動いた。まっしぐらに玄関へと向かうと、急に後ろから着流しを引っ張られる。

「!」
「銀ちゃん、何処行くネ!!」
「何処って、新八を連れ戻しに行くに決まってんだろ!!」
「私も行くアル!」
「お前は待ってろ!下のババァんとこにでも…」

早く出たいのに、依然離そうとしない神楽に苛つきを覚えて怒鳴りながら振り返る。しかし、唇を噛み締めて涙を堪える神楽の姿に、言葉を飲み込んだ。

「銀ちゃん」
(あぁそっか、コイツだって不安なんだよな)

神楽は銀時と同じく孤独というものを知っている。それがどれだけ辛くて怖い事なのかを知っている。よく考えてみれば、神楽だって同じなのだ、目が覚めて、隣に居たはずの新八と銀時が居ない事に気づいたときの焦燥感はどれだけだっただろう。
今、すがるように見上げてくる瞳は(一人にしないで)という気持を強く伝えてくる。銀時は自分勝手に動いてしまいかけた自分を悔いた。

「悪かった。一緒に行こうな」
「…うん」

そう言うと、神楽は強く頷いて定春を起こしに戻って行った。はやる気持ちを押さえて階段を降りると原チャに跨がり、朝のひんやりとした空気の中、風をきって走り出す。


(新八…新八!)



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