長編集

□you are my …
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真っ先に向かったのは新八の実家である道場だった。ドンドンと扉を叩くと、眠たげに目を擦りながら姉のお妙が出てきた。いつもの覇気は無く、どこか幼く見える。

「銀さん?何ですか、こんな時間に」
「新八、新八は!?」
「は?何言ってるんですか、今日はそっちに止まってるはずでしょう?」

俺の様子にようやく異変を感じたのか、訝しげに眉を潜めてくる。早口に事情を説明すると、さらに眉間の皺を濃くした。

「何ですかそれ、そんな話し少しも聞いてませんよ?」
「…どうゆう事アルか?」

おかしい。そもそも冷静に考えてみれば、新八はあんな紙たった一枚で投げ出すような奴ではない。どこまでも真面目なのがあいつだ。
そう思って再びメモを見る。さっきは内容が内容なだけに気にも止めなかったが、下の方の文字が滲んでいる。これは、涙じゃないか?泣きながらこんなメモを残したっていうのか。
これはいよいよただ事では無い。昨日の新八の様子から察するに、恐らくこれは新八の本心ではない。だとすると、考えられる事はただ一つ。誰かに無理やり書かされた。

(誰だ…誰だよ)

心配そうに見つめてくる2人をよそに、ぐるぐると思考を回転させる。そこで、ふいに思い当たった。

(新八に、怪我させた、やつか)

「神楽、お前はここに居ろ」
「ぎ、銀ちゃん?」

お妙と一緒なら大丈夫だろう。何故か怯えたような目で見つめてくる2人を置いて、原チャを走らせた。
とにかく情報が少なすぎる。こういった事についての情報を得るならあそこしか無いだろう。

門をくぐると、何人か黒い服に身を包んだ隊士達とすれ違った。みな同様に一歩距離を置いてくる。屯所に上がろうとした時、背後から声がかかった。

「あれー?旦那ぁ?何して…っ」
「…ジミーか、おい、マヨラーどこだ?」
「マ、マヨラーって…土方さんです、か?」
「そーだよ、どこだ」
「いいい今、呼んで来ます!」

のんきに声をかけてきた山崎は銀時が振り向いた瞬間、サッと顔色を悪くした。そしてオドオドした様子で屯所の奥へと走って行った。少しの後、奥から土方とそれに隠れるようにして山崎が戻ってきた。俺を見た途端、いつもの数倍目付きを悪くする。

「おいおい、なんつー目してやがんだ。隊士達がビビってんだろーが」
「……」
「おい、どーした」

銀時自身は気づいて居なかったが、その目の奥の紅は燃えるように揺れ、只ならぬ殺気をはらんでいた。山崎を含む隊士達は、普段のぐーたらな銀時なら見慣れているが、ここまであからさまに怒りを露にする銀時を初めて見た。

「新八、知らねぇか」
「新八?さぁ、ここには居ねーよ」
「…ゴリラ呼んでこい」
「はぁ?何でてめぇの都合で近藤さんに手間とらせなきゃなんねーんだよ!」
「うるせーな!何処に居んだよ!」
「いい加減にしろよ、てめ…」
「何だ、トシ、何騒いでるんだ。ご近所迷惑だぞ?…ん?万事屋じゃないか」

入り口でぎゃんぎゃん騒ぐ2人を周りの隊士達は遠巻きに恐る恐る見つめていた。あれだけのオーラをまとう銀時に全く臆する事なくつっかかる土方に皆、内心ひやひやしていた。
そんな中、この場に相応しくないのんびりとした口調で現れたのは、局長である近藤だった。

「近藤さん、悪い、すぐ終わらせ」
「何だ、こんな朝早くに」
「聞きたい事があんだよ」
「……」
「……」
「分かった、上がれ」
「おい!近藤さん!?」
「万事屋が訪ねて来るなんて、よっぽどの事だろう?人助けは真撰組の仕事だぞ、トシ」
「ったく、近藤さんは人が良すぎるんだよ!」

溜め息をつきながら近藤に付いて行く土方に、銀時も無言のまま続いた。



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