LIFE
□初恋
1ページ/8ページ
黒い雲が日和の住むアパートの上空低くを覆った。
じきに、鼠色の雨を降らす。
日和はまだ見慣れない街並みを見つめながら、瞬きをした。
以前住んでいたマンションはマンションとはいえ2階だった。
まだ幼い日和は地上7階の二重ガラスに吹き付ける雨粒に夢中だ。
「日和、日和ってば、遅刻しちゃうわよ」
「…うん、行く」
妹を背負った母の美晴が鮮やかなイエローの合羽を片手に玄関から手招きをしている。パタパタと廊下を日和が駆けていく。
「ねぇ、ママ」
「ん?なあに」
「これ、着てなきゃだめ?」
日和は下あごを沈ませて、サイズ違いのごわごわした茶色のセーターを指差した。
すまなさそうに大きな瞳が美晴を見つめる。
「うん、今日寒いんだって。それに、ひーちゃんは寒がりでしょ」
母は子に優しい笑顔を見せた。それにつられて、日和も思わず笑ってしまう。
「うん、寒がり」