LIFE


□初恋
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黒い雲が日和の住むアパートの上空低くを覆った。
じきに、鼠色の雨を降らす。

日和はまだ見慣れない街並みを見つめながら、瞬きをした。

以前住んでいたマンションはマンションとはいえ2階だった。
まだ幼い日和は地上7階の二重ガラスに吹き付ける雨粒に夢中だ。

「日和、日和ってば、遅刻しちゃうわよ」
「…うん、行く」

妹を背負った母の美晴が鮮やかなイエローの合羽を片手に玄関から手招きをしている。パタパタと廊下を日和が駆けていく。

「ねぇ、ママ」
「ん?なあに」
「これ、着てなきゃだめ?」

日和は下あごを沈ませて、サイズ違いのごわごわした茶色のセーターを指差した。
すまなさそうに大きな瞳が美晴を見つめる。

「うん、今日寒いんだって。それに、ひーちゃんは寒がりでしょ」

母は子に優しい笑顔を見せた。それにつられて、日和も思わず笑ってしまう。

「うん、寒がり」

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