REST

□秋雨に花薫る
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雪路玲架、24歳。
社会人2年目。

いつも2番手。

小学生では、足が速いのが自慢だった。
千夏に勝てたことは1度もない。

中学校入学直後に入部した、美術部。
いい線いくね、と先生は繰り返し言った。
コンクールの金賞は所詮夢だった。

高校のはじめの1年間は、部活も勉強も頑張らなかった。
一念発起した彼女が始めたのは、懐かしのそろばん。電卓の速打ちもした。
しかし、計算問題は何故か苦手なままだった。

大学は、というと特に変わったことはなかった。
あったのは、愛犬メリーの出産と死くらいだ。
そのときばかりは雪路も応えた。



大好きだった恋人は同期入社の綾瀬にとられた。
ちょうど2ヵ月前のことだ。

そして、つい3日前に最愛の妹が自殺した。

嫌なときにだけ、雪路は1番のりだ。

変わり果てた妹の死体を発見してしまった。



もうどうでもいい。
そう思った彼女は、大通りを外れた路地裏に立った。

入社祝いに買ってもらった、使い古した赤いヒールを脱ぎ捨てる。
腕捲りをする。
邪魔なジャケットを振り払うように脱ぐ。




雪路の頭に響く3カウント。



3



2






1











ついさっき離れたばかりの大通り目掛けてまっしぐら。

向かい風が頬を掠める。
鼻につく甘い香り。

一体なんの香りか、雪路は気にすることなく走り抜けた。




雪路の視界に点滅中の信号機が入り込む。

いける。


確信した雪路は渾身のスライディングを決めた。






1着だ。


歓喜の涙が溢れた。






塀に突っ込んだ大型車。
割れたガラス片が辺りを反射する。
鮮やかな血がアスファルトに滲みる。
横断歩道は3色になった。


秋風が、息を吐かなくなった雪路の髪を揺らす。

金木犀の匂いがした。


3秒、いや2秒。
1秒だっただろうか。



そのあとすぐ、雨が降りだしたのは―――







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