E047
□実験記録04
1ページ/2ページ
高瀬が白い部屋に入ると、ふわふわの真っ白なベッドに埋もれて陸はすやすやと眠っていた。
ベッドの端に腰を掛けると小さな音を立ててスプリングが軋んだが、陸が目を覚ます気配は無い。
高瀬は眠る陸の髪をそっと指で梳いた。
研究者の中には実験体を粗末に扱う者が多く、実際高瀬が他の研究者の実験を見学に行った時、実験体は大抵やせ細り、身体は痣や傷でみすぼらしくなっていた。
高瀬は最初、人体実験とはこういうものだと納得したつもりでいた。
しかし陸を目の前にすると、毎日きちんと食事をさせ、風呂に入れるのが当たり前の事のように思えてしまう。
陸は、ここに連れて来られた時よりも清潔になっているくらいだ。
折れそうな身体は相変わらずだけれど…。
「ぅ…んん…」
赤ん坊がむずかるような声を出して陸がごしごしと目をこすった。
白く細い腕には、傷ひとつ無い。その事に今更高瀬は安堵した。
自分が配属されたのが、陸が連れて来られたのが、第二研究所で本当によかったと思った。
第二研究所というからには、もちろん第一研究所も存在する。
そこでは、"苦痛を快感に変える"というのが主な実験内容だった。
そこに行った実験体はショック死する事が多いという。
「たかせ…さん…?」
「おはよう陸、起こしてごめんよ」
頭を撫でると、陸は気持ちよさそうに目を閉じる。
高瀬は、キスしてしまおうか、なんてふと思ってしまった自分に苦笑した。
「…じっけん…なの…?」
"実験"という言葉を自分で口に出しながら、身体を起こして陸はふるりと震える。
怯えているのは一目瞭然で、高瀬の白衣の裾を握る手は力を入れすぎて白くなっていた。
高瀬はその手をそっと握って、陸に微笑む。
「大丈夫、今日は精液のサンプルを採取するだけだからね」
「ん…」
陸はこつんと額を高瀬の肩に当てると、すりすりと甘えるような仕種をした。
ここ最近で見られるようになった行動だ。
最初は警戒心がひどく高瀬の一挙一動にびくびくしていた陸だったが、時間が経過するにつれて心を許してきたらしい。
今では高瀬が手を差し延べれば素直に甘えるようになってきた。
高瀬は陸の頭を撫でてから、抱き上げて実験台の上に移動させる。
今日はサンプルを採取するだけなので脚は縛らない。
尿道にカテーテルをそっと差し込むと、陸は「んんっ」と小さな呻き声を上げて身体を強張らせた。
「陸、膝抱えてて。今日は我慢しないでイっていいからね」
こくこくと頷く陸のアナルに指を入れ、探るように内壁をなぞる。
「ぁっ…う、ぁあ…ッ」
陸はもどかしげに腰を揺らす。実験しない日まで意地悪するのは可哀相だな、と高瀬は思い直し、よく知った前立腺をごりごりと刺激した。
「ひっ…あ゙ァ!!あーっ、ぁ、ひぁあああ!!」
ガクガク震えながら、陸はいやいやをするように首を左右に振る。
その様子が可愛らしくて、高瀬はカテーテルをくわえたままの陸のペニスを手で上下に扱いた。
「ぁッは、あ らめ、でひゃうぅうっ…!!」
「出していいよ」
カテーテルの端にはすでにパックをはめてある。
高瀬の許しを得ると、陸はそのままぴゅるぴゅると精液を吐き出した。
カテーテルを外してパックをいつものように保存し実験台に戻ると、陸は丸まってカタカタ震えていた。
度重なる過度の快楽を伴う実験は、陸に恐怖を植え付けていた。
頭をぐちゃぐちゃに掻き回され何がなんだか分からなくなる程の快楽…
最近では陸は快楽を感じる度に怯えるようになっていた。
この狭い空間で実験と睡眠しか繰り返さないのだから、無理もない話だ。
それは、じわじわと陸の精神を蝕んでいた。
「陸…」
そっと肩に触れれば、陸はびくっと身体を跳ねさせる。
「今日はこれで終わりだよ。ね?もう恐くないからね」
抱き上げて背中を擦ってやれば、陸は小さな嗚咽を零し始めた。
「ぅ…っく、ふ…ぅうっ…」
子供のように首にしがみついて泣きじゃくる陸を愛しいと思ってしまう自分を、高瀬はもうごまかす事はできなかった。
この子の精神が壊れる前になんとかしなければ、と思案を巡らせる。
それからしばらく、白い部屋には陸の嗚咽が響いていた。