E047
□実験記録05
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「第一研究所の佐山だ。これからE047を預かる」
そう言って、佐山は陸を引き取りに白い部屋へとやって来た。
華奢な銀縁の眼鏡をかけ冷たい目をしたその男は、高瀬と同じ白衣を纏っているはずなのに、全く同じ雰囲気が感じられない。
「くれぐれも壊さないようにお願いします」
「所長から言われている。しかし壊れたところで代わりはいくらでもいるだろう」
え?代わり?と首を傾げた陸の目には、見たこともないような表情をした高瀬が映った。
何かを言いたそうな、それを無理矢理押し込めているような表情だった。
「研究対象が変わればデータも一から取り直す事になりますから…そんな手間は掛けたくないんですよ」
「ふん…それはもっともだな。では借りて行く」
佐山は陸の細い首にがっちりした首輪を付けると、それに繋がる鎖を引っ張った。
納得したつもりでもいざ直面すると膝が震える。陸は何度も高瀬を振り返りながら、白い部屋から引きずり出された。
……それが、2日前の話だ。
「あ゙ッ…が、ぎゃああっ!!」
バチンバチンと大きな音を立てて陸の白い肌を革製の鞭が襲う。
この2日間で、陸の体は見違えるほどに酷い有様になっていた。
「うるさい」
佐山は冷ややかな目で陸を見ると、鞭で思い切り痛みで縮こまったペニスを叩いた。
「ぎイ゙ぁあ゙あァあッ!!」
「うるさいと言っているだろう。実験体に声はいらない」
そう言い捨てると、佐山は陸の口にギャグボールをはめ込む。
ふと足元を見ると、陸はチョロチョロと失禁していた。
「こんな実験体、よく使えたものだな…高瀬君には新しい実験体に変えるよう進言しておこう」
"高瀬"というワードに陸がハッとすると、佐山は不気味に口元を歪めて笑った。
「実験体なんてスラムに行けばいくらでも格安で手に入る…お前である必要なんてどこにも無い」
佐山が陸の顎を掴んで上を向かせると、陸の目からはぽろぽろと涙が零れていた。
「くくっ…高瀬君だってもっといい実験体の方が研究がはかどるだろう。はっきり言ってお前は今まで見たどの実験体よりも劣っているからな」
陸の頭の中は、真っ白になっていた。佐山の顔は滲んでよく見えないし、喉からはひゅうひゅうと隙間風のような音がしていた。
脳裏には、高瀬の優しく微笑んだ顔が浮かんでは消えた。
もう高瀬の元には戻れないのだろうか?それを自分に問う事さえ恐くて、陸の全身はガタガタ震える。
次に佐山が鞭を振るっても、陸はもう呻き声一つ上げる事はなかった。