E047
□実験記録07
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陸が目を覚ました時、抱きしめてくれていたはずの高瀬はいなくなっていて、自分は白いベッドに寝かされていた。
身体が悲鳴を上げるのにも構わず飛び起きて部屋を見回すが、高瀬の姿は見えない。
「っ……」
泣いてばかりいるから呆れられたのかも知れない。
使えない実験体だと思われたかも知れない。
思えば第一研究所から戻ってから、一度も実験をしていなかった。
毎日のようにしていた筈の実験をしなくなるという事は、それだけ高瀬の仕事が滞っているという事だ。
「っ…っ…」
泣けば高瀬を困らせるのは分かっているのに、涙が零れ出すと止まらなくなってしまった。
その時、パタンと音を立てて高瀬が白い部屋へ入ってきた。
陸がベッドにうずくまって泣いているのを見つけると、すぐそこへ駆け寄る。
「あぁ…また泣いているのかい?…僕は君を置いてどこかに行ったりしないよ」
陸は涙を拭ってくれる高瀬の暖かい手を掴むと、ベッドを降りてぐいぐいとその手を引っ張った。
「陸?」
高瀬を実験台の傍らに立たせると、陸は自ら実験台に寝そべり脚を大きく開いて膝を自分で持った。
実験する時の体勢である。
「え…もしかして、実験しろって言いたいの?」
ぽろぽろと涙を流しながら、陸はこくこくと頷いた。
その様子を見て高瀬は苦笑すると、陸のわきに手を入れて身体を起こさせる。
「陸…正直に答えてね。僕の事、嫌い?」
「!?」
陸は慌ててぶんぶんと左右に首を振る。
「じゃあ、好き?」
今度はこくこくと縦に首を振った。
「一生一緒にいてもいいって、思う?」
高瀬がそう問うと、陸は一瞬きょとんとした。
しかしすぐに真剣な表情でこくりと頷き、細い腕で高瀬に抱き着く。
「じゃあ…二人でここを出よう。誰も僕らを知らないような場所に行って、小さい診療所を開くんだ。自然が多くて、空気が綺麗な所がいいね。陸にも色々覚えて手伝ってもらうから、覚悟するんだよ?」
夢みたいな話だ、と陸は思った。きっと自分はまだ第一研究所で気絶していて、優しい夢を見ている途中なんだ。
陸はにっこり笑って、大きく頷いた。目を細めた拍子に最後の涙がほろりと零れた。