E047

□実験記録07
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みぃんみぃんと蝉が愛を叫んでいる。

畑と畑の間、舗装もされていない道を、陸は小走りで進んでいた。

手に提げた買い物かごには卵とパン、他にも果物や野菜が入っている。
早く帰って冷蔵庫に入れなければならない。

「おーい、おぉい」

畑の中から呼ばれて足を止めれば、こんがりと日焼けした老人が手を振っていた。

「こっ…こ んにちはっ」

陸が挨拶をすれば、老人も顔を綻ばせる。

「この暑いのに買い物かぁ?ご苦労さんだねぇ。ほら、桃持って行きな。今朝もぎったばっかりだから美味いぞぉ」

老人は腕に抱えた桃をごろごろと買い物かごに放り込んだ。

「あ、ありがとうございます…っ」

「いいんだよ。先生にも宜しく言っといてなぁ」

老人は顔をくしゃくしゃにして笑うと手を振ってまた畑の中へと戻って行く。陸も踵を返して家路へと急いだ。




高瀬はカルテを広げたまま机に突っ伏して、うたた寝をしている。
開け放した窓からそよそよと風が吹き込んで来て、高瀬の髪を揺らした。

そこへパタパタと陸が駆け込んで来て、高瀬を揺すり起こす。

「高瀬さんっ、起きて、起きて…」

「んー…どうしたの…?」

目をごしごしとこすりながら、高瀬はけだるげに身体を起こした。

「山本さんちの、おじいちゃん…桃、くれた…!」

寝ぼけ眼の高瀬の鼻先にぐいぐいと桃を押し付ける。
剥いて欲しいのだろう。
高瀬は大きく欠伸をすると、桃を受け取って台所に立った。

「高瀬さん…あんな所で寝るの、珍しいね…疲れてる、の…?」

労る言葉を掛けながらも、陸は桃の皮を剥く高瀬の隣で餌を待つ雛鳥のようにそわそわしている。

ぴたりとくっついて高瀬の手元を今か今かと凝視していた。

「陸が夜に眠らせてくれないからだよ?」

「えっ…!そ、それは…!」

陸は真っ赤になってからすぐに青くなる。

「嘘だよ、嘘…風が気持ちよかったからね。そういえば、夢を見たよ」

「夢…?何の…?」

一口サイズに切り取った桃を陸の口に放り込んでやれば、陸は目をきらきらさせてむぐむぐと咀嚼した。

「昔の、陸と僕の夢」

ちゅっと唇に軽くキスをすれば、ほんのりと桃の味がする。

窓辺に吊した風鈴が、ちりんと音を立てた。
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