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□学校もの タイトル未定
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―誰にだって最悪な日の一日ぐらいあるだろう
そう考えながら安藤蓮は「安藤」という名字に生まれたがために先生の目についてしまう。」と評判の一番前の席に座りながら、授業中でさえまったくと言っていいほど見もし無い黒板を穴があくのではないのかというほど見つめていた。
―そういえば黒板ってなんで黒くないのに黒板ってゆうんだろう。
ふとそんな素朴な疑問が頭の端でよぎったが、すぐに思考は目の前の本題へと変わった。
―そりゃあ誰にだって運の悪い日はあるけど
目の前の黒板には大きな文字ではっきりと「安藤 蓮」の文字が刻まれている。それ自体は何の問題もないのだが、問題はその前に刻まれている文字だ。
―何も今日じゃなくても良いだろ!
蓮は生まれつき運の良い方である。今現在、高校生になるまで一度もあみだくじというもので当たった事はない。しかし、今日、当たってしまったのだ。それもー
―体育委員 安藤 蓮―
蓮のわずかにしか作動していない脳みそでも「体育委員=体育祭の雑用よろしく☆」の等式ぐらい理解している。面倒なことがなによりも苦手な蓮は絶望していた。そんな蓮の気持ちも考えず担任の宮本が楽しそうに「いやー、決まって良かったなぁ!」などと抜かしている。
―何が良かったんだ!
そして一刻でも早く帰りたいらしいクラス代表がとどめを刺すように言い放った。
「じゃあ運動委員は安藤くんで決定で!」
その一言でいまだかつてないほどの団結力で一斉に帰り始めるクラスメイト達。横の席から河野が「あんちゃんおつかれー☆」と嫌味に言い、後ろから石井が「頑張れよ。蓮。」と好き勝手に言い放ち帰って行った。
―あんまりだ!!

(体育委員は放課後多目的室に集合するように!)
そう笑顔で(きっと意図的に嫌味に)言った宮本の顔を思い出しながら蓮は茶髪の頭をかきながら、多目的室へと続く廊下を歩いて行った。
―宮本は何か俺に恨みでもあるのか。そうだ。絶対そうだ。そうじゃないと人の不幸をあんな笑顔で笑えるはずがないよな。授業をちゃんと受けて無い事を根に持ってるのかー
授業で使わない脳みそをそんな事を考えるのに機能させながら歩き続けていると、ふいに背後から「蓮!」と呼び止められた。振り返りその姿を確認すると、蓮の「校則無視」が服をきているような格好とは対照的に、律義に校則通りの格好をした少年が近寄ってくる。隣のクラスの杉山である。「よぅ蓮!お前も体育委員なのか?」「おぅ」「へぇ、蓮が委員やるとか珍しいじゃん。」「あみだで当たったんだよ・・・御前こそ珍しいじゃん。」「いや、俺のクラスは推薦式だったんだけどさ、選ばれた女子が部活入ってて大変そうだったから変わったんだよ。俺、帰宅部だし。帰っても特にする事ないしさ。」
―こういう事、素でするからもてるんだろうな・・・。
杉山は優しい上に成績優秀、スポーツ万能、中々容姿も良いときている。女子にもてるのは当然のこと男子にも幅広く顔がきくという絵に描いたような「完璧」な少年である。
それにくらべ俺はスポーツは良いとして成績は下から数えた方が絶対に早いと来た。唯一の救いは(自分でいうのもなんだが)容姿が中の上ぐらいなところだ。
―こういうのって生まれつき決まってるんだろな。
そんな事を考えながら歩き続けて多目的室が目の前というところでふいに杉山が話かけてきた。「そういえばさ蓮、今回の体育委員の中にさあいつもいるらしいぜ。えーと・・・あぁ、―桐生千尋」桐生千尋。名前ぐらいなら知っている。同学年のやつで少し変わっていてクラスで浮いている。容姿(だけ)は良いらしくて一部の女子に人気。学力検査のテストでは常に1位、スポーツテストでも常に5位内という恐ろしい功績を残している。俺が知ってるのはそのぐらいだ。前からどんな奴なんだろうと気になってはいた。一時期、友達とどんな奴かを想像して盛り上がったりもした。俺の想像上の桐生千尋は黒髪短髪、一昔前の漫画に出てきそうなメガネとかかけてる真面目な奴だ。
―実際、どんな奴なんだろうな。
蓮は扉に手を掛け、少し期待に胸を膨らませながら開けた。「・・・・・・。」―いない。俺の想像した様な桐生千尋は。だが、教室の一番奥、窓側の席に明らかに浮いてる奴がいる。「・・・杉山、もしかしてあれか?」「人の事あれ扱いするのはどうかと思うけど。あいつだよ。」といつも通りの爽やかな笑顔で答える杉山。―いやあれおかしいだろ。
桐生千尋は見事なほどに俺の期待を裏切ってくれた。高校生男児にしては低めの身長にきつい印象を受ける目、その目はカラコンでもつけているのか少し金色がかっているようにみえる。髪は綺麗に染められた金色の長髪を後ろで少しだけ束ねている。肌が少し白く余計に金髪が目立ってみえる。校則通りながらも若干着崩した制服に鞄や筆箱を初め、全ての持ち物が黒で統一されている・・かと思えば鞄には女子が好みそうなクマやウサギの派手なキーホルダーがジャラジャラとつけられている。何より全体的に――冷たい印象をうける。
みるからに他の人とは違う。こんなにも盛大に予想が外れたことはない。「たしかにありゃ、変人だな。」と俺は思った通りに口にだした。「そんなこと言うもんじゃないぞ。」そう言ってはいるが杉山も内心、少なからずは同じ事を考えているはずだ。「あいつ、完璧浮いてるよ。周りの席、誰も座ってねぇじゃん。」蓮がそう言うと杉山は少し考えてから、「なぁ、今日席、自由だろ?桐生の隣、座りに行こうか。」と言い出した。蓮は内心、それは遠慮したかったが、杉山は元々、ああゆう孤立してる奴はほっとけないタイプだ。ここで断るのも少し気が引ける。蓮は小さくため息をつきながら答えた。「分かったよ。」杉山はありがとう、と軽く礼を言って、千尋の方へと向かって行った。少し間をあけて、蓮はその後を追って行った。「よぅ、桐生!隣いいかな?」いつも通りの明るい声で話しかける杉山。普通、こんな風に声をかけられたら、大抵の奴は「NO」とは言わないだろう。答えは「YES」に決まっている。―――が、千尋は無表情に一言「・・・何で?」と返してきた。―いや何で、って言われてもな・・・。杉山も少し困った様子だ。
「・・・理由はとくに無いんだけどさ。あの――」「もしさ。」杉山の答えを遮って千尋が言った。「もし、俺が可哀そうだからとか思ってるならそれは間違ってるから。」―・・・。「あと、そうやって輪の中に入ってない子に声かけるのが優しさだと思ってるなら止めた方がいいよ。そういうのって自己満足だから。」予想外すぎる発言に蓮は呆然とした、と同時にじわじわと怒りがこみあげてきた。さすがの杉山も呆気にとろれている。続けて千尋が「でも、もう委員会始まりそうだし、別に座りたいなら好きにどうぞ。」と眉ひとつ動かさずに言いきった。「―どうする?杉山」蓮が話しかけると杉山は我に帰って、「そうさせてもらうよ。」と笑顔で答えた。さすがだ、と蓮は感じた。―俺だったらきれてる。絶対に。杉山が席についたので、蓮はその後ろに座ることにした。先ほどの怒りが収まりきらなかったので、「普通言うかよ。あんなこと。」と小声で杉山に悪態をつくと、杉山は余計なことを言うんじゃない、というような顔をした。すると千尋は「俺、思った事は言う主義だから。」と(望んでもないのに)答えた。―どんな聴覚してんだこいつ。千尋はなにごともなかったかのような顔をしている。「お前表情筋とかねぇの?」「いいかげんにしろ、蓮。」すかさず杉山が止めに入る。「杉山は黙ってろ。」蓮は千尋に怒りをぶつけようと口を開いた―が、この状況を知ってか、知らないでか(もちろん知ってるわけがないのだが)先生が入ってきてしまったため、断念しざるをえなかった。前の席の杉山に「お前むかつかないのかよ。」というと、杉山は「ちよっとびっくりしたけど・・・。結構痛いところつかれたからな。―あながち間違っちゃいねぇし。」と言ってそれきり黙ってしまった。(先生の説明が始まったから、というのもあるが。)―あぁ、体育委員になった時、これが今日一番のついてない事だと思っていたけどまさかあんなラスボスがいるなんて。 しかし蓮の考えは甘かったようだ。本当のラスボスは委員会が終わった後にやってきた。
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