びーえる

□そして見えてきたもの
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神田への想いを知ってから一週間が過ぎた。
神田は任務に行っていていなかったんだけれども、彼が任務に向かう前にラビの部屋で、

『ラビ。神田君、何度呼んでも返事しないんだけど、そっちで何かやってない?』

とコムイさんからゴーレムを通して言われて、即座にラビと神田の部屋に行ったのを覚えている。

「神田ぁ!」
「ユウッ!」

二人で同時にドアを蹴破り、「何やってんだ!てめぇらああぁぁぁぁ!!!」と六幻を抜刀されたことも。
あの時返事をしなかった理由をコムイさんが聞いたら、考え事をしていて聞いていなかったと、馬鹿正直に答えていた。
コムイさんは怒るどころか珍しいと不思議がっていたが、僕はその時の神田の顔が少し赤いような気がして不安になった。


そして今日、その不安が的中することになる。
そう。任務から帰った神田が、突然目の前で倒れたのだ。

「神田!!」

とっさに神田を抱き起こす。
顔は赤く、息は少しばかり荒くて苦しそうだったので、まさかと思って額に手を当ててみると、すごく熱かった。
近くにいた神田と一緒に任務に行っていたファインダーに報告を任せると、神田を抱えて彼の部屋に向かう。
そして着くと、神田を寝かせ、看病を始めた。
こういうのは、婦長さんたちの仕事なんですけど。

「本当に好きなんですね、貴方のことが‥‥‥」

自分の行動に苦笑しながら呟いた。
仲間だからだというのももちろんある。
でも好きだという気持ちもあって‥‥‥。
何だか、ちょっぴり複雑に思う。
ふと、神田が身じろぎして唸った。
起きるのかとじっと見ていると、頬を赤く染めて彼は言葉を紡いだ。

「バカ、モヤシ‥‥‥」





ん?




‥‥‥‥‥‥‥‥





ええぇぇぇぇぇぇ!!?


僕が心の中で叫んでいると、神田は舌打ちしてそっぽを向く。
そして彼にしては珍しく(っていうか初めて見た)声を上げて笑った。


まさか、聞いてたんですか!?神田!!










ゆらゆら揺られ、眠りに誘われる。
気づいた時には、ベッドに横たわっていた。
まさか、自分が風邪をひくなんてと、そう思っていた。
任務中にも体調が悪いとは感じていたが、休むわけにはいかないと無理をしていた。
結果がこの様か‥‥‥。

「ふぅ‥‥‥」

誰かがため息をつくのが聞こえた。
そっと耳をすましてみる。
すると、鼻歌が聞こえてきた。
綺麗な声。モヤシの声だと気づくのには、ほんの少し時間がかかった。
恥ずかしい話、聞き惚れていたからだ。
あまりに心地いいから、また眠ってしまいそうになった。
その時――



「本当に好きなんですね、貴方のことが‥‥‥」



聞き間違いだと思った。
いつもケンカばかりしていたから。
しかし同時に、“好き”だと言われたことに喜びを感じている自分がいた。
そして気づいた。自分の気持ちに。
視線を感じる。一週間前と同じような状況に、心の中で笑ってしまった。
だがじっと見られているのはあまり耐えられるものでもないし、なによりさっきの言葉がとてつもなく恥ずかしかったから、一言言ってやろうと口を開く。
頬に集まる熱を感じながら言った。

「バカ、モヤシ‥‥‥」

チラリと盗み見たこいつの顔が可笑しくて、そっぽを向いて笑ってしまった。



声を上げて笑ったのはいつぶりだろう。
舌打ちは気にしないでほしい。癖だ。

「い、いつから、起きてたんですか‥‥?」
「鼻歌歌ってる辺りから」

自分の声がいつもより明るい。
気持ちが軽いせいか、さっき笑ったせいか。

「じゃあ、僕がさっき言ったことも」
「俺のことが好きってやつか?聞いてたぞ」

ククッと笑いながら言えば、モヤシの顔がみるみるうちに赤くなる。
モヤシじゃなくて、リンゴみたいだ。

「そ、それなら話が早い。単刀直入に聞きます。神田は、僕のことが好きですか?」
「それは‥‥‥」

自分の気持ちに気づくことはできたが、伝えるのはやはり恥ずかしい。
そんなことをしたことはないから。

「嫌い、なんですか?」

あまりにも不安げにしているから、布団を頭から被って答えた。


“好き”だと。


聞こえたか気になったから少しだけ顔を出して見てみると、とても嬉しそうにしていたから、伝わったんだと安心した。
それにしても、さっきからやけに頭が痛い。

「頭、痛い‥‥‥」
「ああ、熱が上がったんですね。薬、もらってきます」
「いい。それよりも」
「?」

言いかけて止める。
こんなの俺のガラじゃねぇと、心の底から思った。
が、モヤシには意外にもわかったみたいで、

「貴方が眠るまで、一緒にいますよ」

と言った。
そして椅子を持ってきて座ると、俺の頭を撫で始めた。
その感触が心地よくて、俺は目を閉じ眠った。



どうか、やっと叶ったこの関係が、いつまでも続きますように‥‥‥。





END



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