書物
□奥さんと旦那
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真夏の晴れ時ほど暑いものはない。
じりじりと焼かれるような紫外線を受けて歩く、女性の一部は日傘を差しているし。川や噴水のある場所ではしゃぐ子供もいた。
そんな光景を思い出しながら、ソルはソファで横たわる青年を眺める。
「生きてるか?」
「…死んでは、ない…」
返ってくる声にも元気がない。
家に気配があったから窓から入れば、必ずやって来るはずの青年はソファで仰向けになり、アイマスクをしたまま寝ていた。
寝るならベッドで眠るカイがソファで横になるのも珍しく、聞けば仕事から帰ったばかりで気が付いたらソファにいたそうな。
「冷蔵庫にある物は好きに食べていいから…」
言うと息ひとつ吐いて黙ってしまった。
部屋の中は暑い。
曇り続きで湿気を含む暑さにやられたのだろう。夏バテにでもなったのか、元気が無い上に窓から入ったことへのお咎めもない。
窓から忍び込んだのは自分だが、何も言われないのは何故だか落ち着かなかった。
カイから好きにして構わないと言われたので、小綺麗なキッチンの冷蔵庫を物色する。
しかし。
「……なんもねえな…」
あるのはキャベツと豚肉の残り。そして調味料とミネラルウォーターだ。
これではスープくらいしか作れない。買い物には行かなかったのだろうか。
(……あの状態じゃあ無理だな)
テキパキ動くあのカイがソファでダレてるぐらいだ。そうとう怠いに違いない。
かと言ってソルが何かしてやる義理はないが、放って置くとあのままで居そうだ。
「……チッ」
何か迷いを断ち切るように舌打ちをすると、ソルはキッチンから居間へ戻る。
青年は少しも動かずソファで眠っていた。
覇気のない疲れた様子はカイらしくなく、調子が狂う。
そんな眠っているらしいカイの額をペシッと叩いた。
「おい、坊や」
「いたっ、…お願いだから休ませてくれないか…」
「食材買いに行ってやる。買いたいものメモしろ」
「………え?」