Horimiya


□ノット コンサルタント
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「『人を殺す夢は、殺される対象への【攻撃性】や【激しい怒り】の現れと考えられる。

この攻撃性や怒りは抑圧されているため、普段は無意識ということもある。』」






石川はギクリと肩を揺らした。


後ろの席で何やら本を読んでいた田中が発した声は、自分が今まさに悩んでいる夢の内容。



今は自分と田中の2人だけでいつものメンバーではなく、少し早く移動教室に向かう途中だった。





「えっえっ何いきなりびっくりするわ」

「石川は無意識に怒ってるだけで、死ねばいいって思ってるわけじゃないんだから気にすることないと言いたい」

「別に気にしてねー…てか、なんで俺の夢なんて」

「あれっもしかして覚えてない?
こないだ石川邸に泊まりに行った時、お前寝ぼけて言ってたよ」

「え、 うそ」

「うん、嘘」

「なんだよ え、でもマジでなんで」

「レム睡眠の時に寝言言ってる人と会話できるの知ってる?」

「なにそれ」

「なんかぶつぶつ言ってたから起きたのかと思って話しかけた」

「うそだろ…ぜんっぜん覚えてない」

「ぶっちゃけその時は何言ってんのかわかんなかったけど、さっきわかった」

「なにが?」

「透、こないだから宮村と行動するの避けてる」

「……そんな分かりやすかった?」

「いんや?宮村や堀たちは気づいてないと思う」

「…」






ガラガラ、と静かな廊下に音を響かせて特別教室のドアを開ける。

まだ誰も来ていなかった。






田中はさっさと席に向かい、石川にその顔が見えないようにした。


石川・井浦・田中は小学校からの幼馴染だ。

他人が分からないようなこともお互いならわかることもあるし、何より優越感があった。



「幼馴染だからな、なんか違うなとは思ってたし、秀も薄々感じてはいると思う。
 ただあいつクラス違うし理解はしてないだろうな」

「…ごめん」

「謝んなって!まぁ透あんまり怒んないから、いつ怒んのかなーと思って俺としては心配だった」

「…そうなの」

「そうなの。まさかはけ口が夢とは思わなかったけど、それだけ透は我慢してるんじゃね」

「…うう」

「泣く?」

「耐える」

「だぁから我慢すんなってバカー!ほら、まだ人来ないし」

「だからなんだ…」

「泣いていいと思う」

「やだ」

「意地っ張りなんだからあああ透の代わりになんて泣かないからな!」

「なんでお前そんな一生懸命なの…いつもの無気力は何処行ったんだよ」

「我慢は体に悪いから!なんでもかんでも我慢すんな!」

「…」

「ほれ、肩貸すから」

「……」

「まったくもー我慢するなら勉強するときにしろよ」

「…誰か来たら、言えよ」

「はいはい」

「抱きしめんな!暑い!」

「素直じゃないんだからー」

「うるせえ」











静かな教室に、鼻をすする音がやけに大きく聞こえた。






「堀のこと好きになったのは透のが先だったもんな、そりゃ悔しいよな」







田中は本気で人に恋をしたことがない。


恋に破れて涙を流す人の気持ちはわからない。




しかし揺れる幼馴染兼親友の背中をさすって、

小さく嗚咽をこぼす彼に肩を貸して

鼻の奥がつんと痛んだのは彼しか知らない。










「ちょっとはスッキリした?」

「…ん」

「そっか、いい子いい子」

「…お前そんなに洞察力あったっけ」

「最近のマイブームは睡眠心理学なの」

「…そう…」

「人って視覚的なイメージすると右上に視線がずれるって聞いた。
 さっき透の目が泳いだ時まさにそうだったからカマかけてみたってばよ」

「カマかけるとか…お前をそんな風に育てた覚えはないぞ…!」

「えっ俺育てられてたの?」





















ノット コンサルタント
(てか結構時間経つけど誰一人来ないな…)
(…あ、メール。堀から)
(えっ)
(『あんたらどこ行ったの?今日移動じゃないわよ?』)


 

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心理学がマイブームな男子高校生…


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