Horimiya


□放たれたスピンオフ
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落書きだらけの黒板がある教室で一人、まだ咲いてない桜が揺れる階下の様子を眺めていた


生徒に囲まれる担任、泣きながら抱き合う女子、はしゃいで走り回る奴ら、
卒業証書の入った筒でチャンバラする奴ら、後輩から花束をもらう奴、教師と握手する奴、あれ、赤い頭はどこに



「…田中くん!」

「ん?あ、仙石ー」




ああ、灯台下暗し


この瞬間の俺の気持ち、仙石は知らないだろうね




「あ、えっと、」

「どした?おちつけってー」

「だ、第二ボタンください!」




このとき俺の脳内で、どれだけの桜の花びらが舞い上がったか

顔に出さないのは、自分を落ち着かせるためなんだ



随分前に流れた、仙石と堀が付き合ってるって噂はまだ俺にしがみついてた

堀とも、何回か喋ったことがある
少し乱暴なところもあるけど気質の良い美人だ



深く考えたら悲しくなる気がして、元々とれかけてたボタンを引きちぎる

千切れた糸はそのまま床に落とした




「いいよー」

「えっ」

「えっなに、ちがった?シャツの方?」

「いや、あってるんだけど…」

「もうちょっと丁寧にやったほうがよかった?雑でごめん」

「いいんだ!こんなすぐ貰えるとは思ってなくて…ありがとう」

「いいえー。俺も仙石のボタンもらっていい?」

「! ああ、はいどうぞ…」

「ふへ、ありがとう」

「いえ…田中くんは、八坂高校だっけ」

「…うん、仙石は?」

「俺は片桐。すごいね、八坂なんて進学校じゃないか」

「いやー、行ったところで落ちこぼれだろうけどね」

「受験勉強がんばってただろ、大丈夫だって」




仙石がそういうなら大丈夫かぁ

渡された第二ボタンに目線を落とした



心臓に一番近い第二ボタンは鈍く光り、少し重い気がして

大切にしなければと脳内で咲き乱れた桜が叫ぶ





「…また、あ」




また、それから俺はなんて言おうとしたんだろう

そんなに接点があったわけじゃない
クラスが同じになったこともない、生徒会で少し話す程度の関係だった




そういえば堀も片桐じゃなかったっけ


ああそうか、そういうことかぁ




「うん?」

「……や、なんでもない。ボタンありがとう、俺もう行くわ」

「ああ、俺こそありがとう。それじゃ」

「…仙石」

「なに、……!!」

「バイバイ」





しゃべった回数なんて両手で足りる程度だろうから、
せめて記憶に残るように抱きしめたんだ


もっと力を込めれば折れそうなぐらい細かった



ちゃんとご飯食べるんだぞ

心の中でそう言って、すぐに体を離した







もう会うこともないだろう

言いようのない達成感と、虚しさと、悲しさと、目頭の痛みを連れて教室を出た



仙石の泣きそうな顔なんて見てなかった













それから数年後、友人経由で再会するだなんて頭になかった









放たれたスピンオフ
(え、嘘)
(そんな、まさか)
(えっなに?君ら知り合い?)
(鞄落としたぞ田中)
(2人とも顔真っ赤だぞ、大丈夫か?)





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主人公は仙石と同じだと思って八坂にしました。
仙石は主人公と同じだと思って片桐にしました。
見事なすれ違いだってまだ中学生だもの。

運命の再会は宮村と進藤経由。


title:Shirley Heights

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