たんぺん

□卵焼き
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「ひかるっ!」

なんやねん、このかわいい生き物

「このおかず、めっちゃ美味い!」

なんやねん、ほんま一挙一動が愛しい

「んぅ…ふふ…うまっ」

真っ赤な舌がチラッと現れ
柔らかくて美味しそうな唇を濡らしていった
…ある意味オカズやな

「あ…せや、こっちひかるにあげるな!」

あ、笑った。へにゃって。
なんやねん、そのあほ面
弁当よりもそっちの方が食べたなるわ

「ほな、口開けぇ?」

首を傾げて箸を持ってる
なんやねん、この天然
誘っとるんか

「ん。あー」

「…//  はい、あー…」

口を開ければ、俗に言うあーんwをしよる
卵焼きが俺の口に入る一歩手前で
ベタなイチャイチャ展開やとようやっと気がついたんか、
今更頬赤く染めて"んw"は言ってくれへんかった

「…どや?」

なんか、新婚みたいやな

「よm…よそうよりは、まぁ。」

あー、危ない
嫁に欲しいとうっかり口が滑りそうになってもうた
すぐにセリフを付け替えたらちょお無愛想になったな
(あ、無愛想はいつもか)

拗ねるかなと思ってちらっと見てみたら、
ホンマに予想外や
目をクリクリさせてこっち見とる

「じゃあ、予想より美味かったんねんな!」

「青汁好きっちゅー、頭だけやなくて舌までアホな
謙也さんの味覚にしてはええセレクトっすわ」

卵焼きってシンプルすぎて美味いとか不味いとか以前に
そもそも味わって食べたことないけど
いただいたときのオプションが美味しいかっただけに
じっくり咀嚼してみたら案外美味しかったのはホンマ。

もちろん別段絶品料理なわけではない
でも気遣うような控え目な甘さに
思わずハマったかもと口を滑らした

「へ?」

「せやから、もっと」

再び口を開れば、別の意味で俺に甘い謙也さんは
またせっせと俺の口内へと卵を運ぶ
親鳥みたいだなと思ったけど、謙也さんと目があった瞬間
やっぱりヒヨコやなと笑いそうになった

…ん、うまい

作ったのは、万理子さん(謙也さんのお母さん)か
惣菜のオバサンか知らんけど、
なんだかこのほんのりとした甘さが謙也さんと重なって
なんとなく美味しく感じる気がした

「えっと、財前?」

「?…もぐもぐ」

「あんな、それなんやけど、」

「…ごくん…どうかしましたか?」

「えっと、今日な、オカン寝坊してん」

「そら大変」

「でな、今日弁当、俺が詰めた、適当に」

「そらご苦労様」

「ちょっと、頑張った!…ほとんどチンッやけど」

「わぁ、よぉ頑張りましたね」

「でも、えっと、その、なんていうか、


卵焼きは、俺焼いてん」


「お疲れさまです、って



…ふーん…」


「だから!…えっと、その…つまりな…







…ちょっと、嬉しいかってん…//」



可愛い恋人にこんなこと言われて
何もシないでいられるヤツがいるだろうか?

ちょっとだけな!
と何度も呟いてガバッと俯いてしまった謙也さんは
放課後、午後の授業に出なかったことを
部長に問いただされることになる



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