短文
□あの日重ねて
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「だいたいアンタとペアになった日は決まってろくなことがねぇんですよ」
「一々訳のわかんねぇいちゃもんつけてんじゃねーよ
毎度毎度よくもサボりやがって、今日こそは市中連れ回してやらぁ」
江戸の大通りを土方と沖田が肩を並べて歩いていた。
二人は市中巡回の最中であったが沖田は土方との組み合わせが大変不服らしく、しきりに土方へ悪態をついている。
その一方の土方もサボり癖がしっかり定着してしまった沖田を改めさせるべく強引に連れ歩いていたのだ。
「トシー!総悟ー!」
間もなく寺の前を通りかかろうとしていた二人を野太い声が引き止めた。
「・・・あり、近藤さんじゃねーか」
「こりゃまた一体こんな所で何してるんですかぃ」
その声の主は真選組局長、近藤勲のものであった。
近藤は足早に二人のいる寺門まで駆け寄ると小声で説明する。
「いやな、ここの寺主とは昔馴染みでさー、駄弁ってたら近所の子供に見つかっちまって・・「あーーー!!」
突然の子供の大声に近藤の言葉は掻き消されてしまう。
「ゴリラの兄ちゃんみぃーっけ!」
「きゃははは!次の鬼だからねー」
林から飛び出してきた何人かの子供が近藤に向かってそう叫び、再び林の中へ消えていった。
「あっやられた!」
そう言って悔しがる近藤。
どうやら近藤は近所の子供達と隠れんぼの最中のだった様。
「近藤さん・・・要するにアンタ、仕事すっぽかしてガキ共と遊んでた訳か・・・」
「あー近藤さんたらおサボりでぇ」
「お前が言うな」
すると近藤は口を尖らせ
「固いことゆーなよトシィ〜、市民の平和を守る者として、市民とのコミュニケーションは立派な職務なんだぜ〜」と弁解してみせる。
「そうだぜトシィ〜睡眠、休憩もまた然りだよ〜」
「てめぇのはサボり以外の何物でもねぇよ!」
しかし、土方は近藤を責めようとはしなかった。
彼のそんな大らかで優しいところも、土方が彼を慕う一つの理由だったからだ。
「・・・全く近藤さんは」
土方は飽きれながらも彼を見て微笑む。子供達と楽しそうに接する近藤の姿を見るのはどこか好きなのだ。
「ゴーリーラー!早く来いよー!!」
そう叫びながら一人の子供が近藤の元まで走ってきた。
ぐいぐいと近藤の腕を引っ張って寺の方まで連れ戻そうとしている。
引っ張られている近藤もこらこら、と言いながらも顔は満面の笑み。
「さっきからそいつらとばっかり話してさー!こいつら誰だよー!」
そう言って土方と沖田の方を睨む。二人とばかり話していてなかなか戻ってこない近藤に嫉妬しているのだろう。
「ん?こいつらはな・・・『わっ!ヤクザだ!!本物のヤクザ!!ゴリラ、ヤクザと友達なの!?」
近藤が紹介しようとしたが、先に口を開いたのは子供の方だった。子供は土方を見るなり興奮気味に声を上げる。どうやら土方の目つきの悪さを見て勘違いしているようだ。
「え!?え!?」
近藤は素っ頓狂なその言葉に戸惑っている。
一方、ヤクザ呼びされた土方は非常に腹立った様子で子供相手に「ああ!?」とドスの効いた声で睨み返している。
しかし子供は全く怯た様子を見せない。寧ろ、「そうやって相手を怯ませてコンクリート詰めにして東京湾に沈めるんだよね!」と嬉しそうに土方に話し掛けている。
子供というものは不思議なもので、大人が恐ろしいと思うものこそケロッとして動じないことがごくまれにあるのだ。
土方が本物のヤクザよろしく、これから人一人殺りますというような表情を浮かべる隣で沖田はクスクスと笑っていた。
「はははは!土方さんたら大人げねぇなぁ・・・、悪人ヅラいじられるのは仕方ねぇことじゃありやせんかィ」
沖田は傑作だとばかりに腹の底から笑っている。
「あれれェ?姉ちゃん女のくせにおっぱいちっちゃいんだね!」
いつの間にか沖田の前に現れた子供は、あろうことか沖田の胸を触ってそう言ってみせる。
その瞬間、沖田から先程の笑みは消え、替わりに現れたのはサディスティックな微笑み。
自分のコンプレックスを直球で突いてきたその発言。
沖田は女顔をいじられるのが虫ずが走るほど嫌いな質。
しかも女のようだと言われる以前に異性と間違えられたことが沖田の怒りを増長させたようだ。
「クククッ総悟、まああれだ・・・それはしょうがねぇよ」
土方は沖田の肩に手を置いて先程の仕返しとばかりに慰めるような口調で沖田を煽る。
沖田はゆっくりと腰の刀に手を掛けそのまま抜刀した。
「ちょっ総悟君!?何考えてんの!相手は子供だからね!!
めっ!そんな物騒なモノ仕舞いなさい!!」
近藤は小さい子供を宥めるような口調で言う。
「近藤さん、こればかりはどうも聞き捨てならねぇや・・・」
沖田はそう言うと刀を大きく振りかぶった。
「武士を愚弄した罪、死んで償え・・・土方コノヤロー!!」
「なんでだあああああ!!!?」
ガスッ
自分目掛けて振り下ろされたその剣を寸前のところで躱す土方。
「てってめぇっ、おかしいだろうがあああああ!!」
理不尽な沖田の行動に怒鳴る土方の額には大量の汗。
「すいやせん、なんかこっちのが数段ムカついたもんで、つい(笑)」
「つい(笑)じゃねーよォ!!」
「チッしくじったぜチクショー」
「てめっ、確信犯だな」
そんな茶番を目の当たりにした子供は、「オレ今スッゲェの見ちゃったぁ!!姉ちゃんお侍さんだったんだ!!スッゲェ!」
と目をキラキラと輝かせ興奮していた。
「・・・兄ちゃんな」
近藤はハハッと苦笑いを浮かべた。
子供達と別れ、三人は頓所への帰り道を歩いていた。
「総悟、いくらなんでも一般市民を前に抜刀はいかんぞ、抜刀は」
「違いまさぁ近藤さん、土方さんが俺も一緒に遊びてぇなぁ、なんて呟くもんだからここは戦場ですぜと思い出させてやったんでさぁ」
「呟くか!!てめぇの八つ当たり受けただけだろうが」
「戦場でもないぞ、ここは」
そう言ってガハハと笑ってみせる近藤。どこまでも器の大きい男だった。
「そういや、近藤さんは昔から子供好きだよな」
土方が思い出したように言う。
「あー・・・なんだろうな
子供見てるとさ、ガキの頃の総悟思い出してな」
そう言って近藤は沖田の頭をわしゃわしゃと撫でた。
「俺ですかィ?」
撫でられ少し前屈みになりながら尋ねる沖田に「ウチの道場通い出した時も丁度あのくらいだったよな」とニッと笑ってみせる。
「あのガキよりも素直じゃねークソガキだったけどな」
「黙れ、そして死ね土方」
「・・・」
「大きくなったなぁ総悟・・・」
近藤は今の沖田に子供の頃の沖田を重ね、その成長を喜んでいた。
近藤はあの子供達に無意識に沖田の面影を見ていたのかもしれない。
『近藤さん近藤さんっ
そんな奴ほっといて早く行きましょうよ!姉上が待ってます!』
そう言って手を引き歩きだす愛しい子供。
遠い日の記憶。
END
あとがき
お読み下さり有難うございました!
なんというか文章力があまりにも足りてないので、自分が書いてることが皆様にちゃんと伝わっているのか心配です(汗
近藤さんのゴリラ呼ばれについてはすみませんでした。(土下座)そう呼ばれて慕われる近藤さんもすごく・・・いいかな、と。(笑)