短文
□夏と少年と手錠
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暇だ、暇。
今日は依頼がない。
いや、正確に言えば「今日も」だ。
最近あった仕事と言えばお妙の勤めている店の大掛かりな模様替え。
それも脅され無償でコキ使われたもんだから、仕事のうちには入らないだろう。
暇に暇を持て余したガキ共はといえば、有給休暇だなんだと称した忌ま忌ましい志村姉と、なぜかマダオをひっ連れて近場の河原でプチキャンプだとか。
銀ちゃんも一緒に行くネ!、なんて神楽に強引に誘われたが断った。
キャンプといえば定番はバーベキュー。あいつらは今晩やるつもりでいるらしい。勿論俺だってバーベキューは食いたい。ごっさ食いたい。
しかし料理担当はあのお妙なのだ。きっとそのまま焼いていただくはずの肉や野菜にも何かと手を加え、結果的にダークマターを生み出すに決まっている。
誰が自ら腹を痛めになど行くものか。
腹痛を訴え帰ってくるガキ共の為に正○丸を用意しておこう。
ただでさえ猛暑日の続く今年の夏だ、一日中外で過ごすなど気が引ける。しかも只今絶賛夏バテ中な訳で、やる気もなければ金もない。その上、食中毒でバタリはさすがにあったもんじゃない。
そんなくだらない事をグダグダ考えながら体は糖分を求めているらしく、重い体を起こして向かったのは行きつけの甘味処。
その暖簾をくぐり、いつもの席へと腰を下ろす。
「おーいオヤジィ、いつものォ」
「あ?いつもの?わかんねぇよ銀さん」
「ああ?いつものっつったら練乳ぶっかけイチゴパフェに決まってんだろうが。贔屓にしてやってんだぞ、いい加減覚えやがれハゲ」
暑さ故些細なことにも苛だっている銀時の口調は荒い。
「まぁまぁ、そうかっかしなさんな旦那。ただでさえ暑いんだ、いらつくのも分かりやすが血ィのぼって頭沸いちまいやすぜー」
突然聞こえてきたかったるそうな声。
その声の方を振り向くと、予想通りの見知った人物が入口脇の長椅子にダラリと寝そべっていた。
「沖田」
「どうも旦那」
アイマスクを外し、寝転んだまま挨拶する。
入口から入ったわけなのだが、暑さで視野が狭まっていたんだろう、沖田の存在に気付かったようだ。
「相変わらず暑いですねぇ」
「・・・おう、こんな日は苛苛していけねぇよ」
「俺もでさァ。暑さのせいで思考回路までおかしくなっちまったみてぇで、今日なんかうっかり土方さんを殺っちまうとこでしたよ」
「仕方ねぇよ、この猛暑日に奴と面合わせちまったらそりゃあ殺りたくもなるわ、なんかこうムカつくもんなアイツ」
「旦那とは気が合うみてーでさァ、あの涼しげな双眸が得にムカつきますね」
いつものように土方の悪口を言い合いながら、いつもと雰囲気の違った沖田に違和感を感じた。
彼は珍しく袴姿だ。沖田が寝そべっている長椅子には彼の愛刀が立て掛けてられている。
「あり、今日は非番?珍しいね」
もっとも、普段からサボり常習犯のコイツには当番も非番も無いようなものだろうが。
「んー・・・そのつもりなんですがねぇ・・・どうもそうしちゃ要られねぇらしいや」
「・・・?」
ボソッと呟かれた後半の言葉が気にかかったが、それを聞く前に沖田はスクッと起き上がり銀時の腕を掴んだ。
「そうだ旦那、ちょいと今から付き合ってくだせぇよ」
「え、今から?・・・嫌だよ、これからパフェ食べるんだもん」
「そう言わず、お願いしますよ旦那ァ」
「ああ?銀さん定期的に糖分摂んないと死んじゃうんだって、また今度な」
「そんな大げさな。今度たらふくご馳走しやすから」
そう言い強引に銀時の腕を引っ張るとあろうことか銀時の両手に手錠をかけた。
「・・・!?
ちょっ、何コレ沖田君!?」
「強制連行です。」
そう言って沖田はニコッと笑みを浮かべる。
「は!?意味わかんねーよ!てめっ外せコノヤロー!」
「ペットは口利きやせんぜ、サド丸32号」
「次はペットォ!?
君さ、前々から良くわかんない子だとは思ってたけど、まさかここまで自己中な奇行少年だとは思ってもなかったよ!銀さんびっくりです沖田君!!」
銀時の言葉など完全無視の沖田は束縛された銀時の腕に自らの腕を回し、店を出た。
それから沖田はスタスタと足取り良く歩き始める。それに合わせるようについて行くしかない銀時はされるがまま。
今、ここで強引に手を振りほどく事は容易く出来ても鍵がなくては両手の束縛は外せない。
外を歩けば熱気で視界が揺れ、急激な気温の上昇を肌に感じた。
「おいおい何処行く気だよ」
半ば強引に連行された銀時は不機嫌に問う。
「涼しくて誰の邪魔も入らず尚且つ思う存分体を動かせる場所でさァ」
「・・・は?」
一瞬、いかがわしい店を思い浮かべてしまった銀時は慌てて首を横に振る。
「旦那のことだ、夏バテぐーたらでろくに動いてないでしょうからね、運動でさァ」