BL短編

□very sweet day
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その日、俺はオフで、自室でゴロゴロしていた。
特にすることもなかったのでベットに横になっていると、ふと脳裏に後輩の顔が浮かんだ。
俺は机の上にある通信機を手に取ると、それに向かって言う。
もちろん、相手はナマイキな後輩のフランだ。


「フランー?」


すると、すぐに返事は返ってきた。


≪なんですかー。隣の部屋なのにわざわざ通信機使わないでくださいー≫


ほーら、こういうとこが可愛くない。
俺はその言葉をスルーして訊ねる。


「なー、今ヒマ?」


≪……ヒマ、ですけどー≫


フランの返事にひそかにガッツポーズしてしまう。


「じゃあさー、王子の部屋来ねー?」


命令形で言うと、この後輩が機嫌を損ねることは分かり切っていたので、気を付けながら言葉を発する。


≪……わかりましたー。カエル置いてきていいですかー?≫


「んー……いいぜ」


たまにはフランのカエル被ってないとこも見たいしな。
そんなことを考えつつも、許可してやる。


≪じゃあ、今から来ますー≫


通信機越しに聞こえるのフランの声はどこか嬉しそうだったのは気のせいだろうか?
すると、そこで通信は途絶えた。



数分後、フランが俺の部屋に来る。


「あり、私服とか珍しーじゃん」


俺はフランを見るなり呟く。
白いTシャツの上から淡い紺色のパーカーを羽織り、下は濃紺のジーパン。
カジュアルというかシンプルな格好だが、基本は隊服姿なので、ある意味新鮮だった。


「いいじゃないですかー、たまには」


フランの言葉に「まぁ、それもそうか」と呟く。


「……で、何の用事ですかー?」


フランの顔を見たかっただけ、なんて言えるわけがない。


「んーと……」


何か良い言葉は無いかと考えていた直後。


≪う゛お゛おーいっ!!≫


俺の通信機から馬鹿でかい声が響いた。


「……何、スクアーロ」


俺は不機嫌さMAXの声で答える。
空気読めよ、クソ鮫。

てか何このタイミング。王子に喧嘩売ってんの?

≪う゛お……。えーと、オフ中にワリィなぁ。午後から急に任務になったこと
を報告しようと思ったんだぁ≫


『はぁ!?』


俺が思わず叫ぶと、フランと綺麗に被った。


≪フランもいるのかぁ?≫


変なところで耳のいいスクアーロはフランの声を聞きとったようだ。
その言葉にフランは「……あ」と呟いて、口を両手で押さえる。
フランのリアクションに俺は苦笑して小声で言った。


「別に隠れてるわけじゃねーからいいだろ?」


「……そーですよねー」


フランは苦笑気味に呟いて頷く。


「……で、内容は?」


俺は通信機に向かって訊ねる。


≪とあるファミリーを壊滅させる任務だぁ。ベルとフランで行ってもらう≫


とりあえず単独任務じゃなかったことに俺は心中で喜んだ。


「わかりましたー。じゃあ、ミーは準備してきますー」


俺は通信を切って、フランを抱きしめる。


「〜〜ッ! せ、センパイ……?」


フランは顔を真っ赤にして、おずおずとこちらを見上げて言う。
あーも、何でこう可愛いーんだよ、コイツ。


「んー、スクアーロに邪魔されたから。……任務前に充電させて?」


耳元で甘く囁くと、フランはピクッと肩を震わせる。


「し、しかたないですねー……」


明らかに動揺してるフランに俺は微笑む。


「あー、フランかわいー」


「うっさいですー」


そんなこと言いつつも、フランは俺の腕の中で大人しくしていた。
それどころか、ぎゅうっと俺に抱き着いてくるわけで。
…・…こういうとこが可愛いんだよな、こいつ。
そんなことを思っていると自然と俺の口元は上がってしまったのだった。









「えーと、この辺ですよねー」


フランは足を止めて、隣に居る俺に問いかけてくる。


「みたいだな。……よっしゃ、ひと暴れすっか」


そう言って、俺は嵐の匣を開匣する。


「嵐ミンク(ヴィゾーネ=テンペスタ)!」


ミンクが俺の肩の上に乗った直後、敵が迫ってきた。


「行くぜ、ミンク。紅の炎 フィアンマ=スカルラッタ!」


すると、たちまち敵は炎の渦に包まれた。


「ししっ、よゆーじゃん。フラン、進むぜ」


そう言って俺は振り返った。
すると、フランの背後に敵が見えた。
距離はあるが、目がいい俺はそいつが何しようとしているのか見分けがついた。


「――っ! フランッ」


俺はフランを守るように抱きしめる。


「ベルセン……――っ!?」


悪態をつこうとしたのか、フランは口を開くが、言葉は途中で途切れた。


「ちっ……」


俺は小さく舌打ちをする。
俺の右肩には一本の矢が刺さっていた。


「センパイッ! 大丈夫ですか!?」


フランは俺を見て、泣きそうな顔で問いかけてくる。
俺は矢を自力で引き抜くと、フランを抱きしめていた力を少しだけ強めて言う。


「ヘーキ。だから、そんな顔すんなって……」


だが、矢の刺さった方の腕に力が入らなかった。


「(……矢の先端に麻痺する薬を塗ってあったみてーだな)」


俺は内心舌打ちをしつつも心中で呟く。
しかも、その腕は利き手で。


「(……こりゃ、ちっと危ねーかも)」


すると先刻矢を放った奴が襲い掛かってこようとする。


「――っ! センパイ、離れててくださいっ!」


フランは懐から匣兵器を取り出して言った。
俺はそれを見て、無言で頷くと後ろに退く。
フランが取り出したのは、ヴァリアーリングではなかった。
“666”と書かれたヘルリングという特殊なリング。
それを指にはめてフランは言う。


「――開匣」


その声に怒りが混じっていたのは気のせいだろうか。
そんなことを考えていると、周囲に膨大な霧がかかる。


「(――ん?)」


一瞬その霧の中から動物のようなシルエットが映った。
その動物がなんだったのかまでは見当がつかなかったが。


「(……これがフランの匣兵器……なのか?)」


もっとも、これはヘルリングであってヴァリアーリングではない。
ヘルリングの匣にも動物が宿っているのか、はたまた双方同じ動物が宿っているのか……今まで見たことも聞いたこともない状況だから、一概には言えなかった。
だが、俺とフランを包んでいる周囲の霧を見る限り、間違いはない。
改めてフランの実力と、ボスの人の見る目の凄さを教えられたようだった。


「……Finito」


フランは目を閉じ、イタリア語で“終了”と呟く。
するとそれが合図だったのかのように、周囲の霧が消えた。


「……すげー」


思わず俺が呟くと、フランは微笑む。
そして、敵のいたであろう方向を見ると、そこには血だまりがあるだけだった。


「フランがやったのか?」


「ミーの匣兵器がやった、が正しいですか……ね……」


言葉の途中でフランの体がふらっとしたかと思うと、地面に倒れようとする。


「――っ!」


寸でのところでその体を支えると、フランは眠っていた。
それを見て、俺は小さく溜め息をついた。
何故任務で匣兵器を使わなかったのかが、分かったような気がする。


「しかたねーな。……よっと」


疲れて眠ってしまっている姫を当然のように姫抱きする。
先刻まで痛んでいた腕の痺れはいつの間にか引いていた。
フランの軽さとその体の華奢さに驚きつつも、俺はアジトへと帰っていった。



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