BL短編
□濃紺に溶ける月
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風も強くなり窓を打つ風とそこからうかがえる空の色は深い濃紺に満ちていた。
そのなかでポツンと浮かぶ満月は淡い金色の輪郭を浮かべながら手入れの行き届いた庭の花々を暗闇の中で照らしていた。
「・・・ベル?」
「あ、」
不意に名前を呼ばれて振り返れば、少し心配そうな顔の兄がこちらをうかがっていた。
「どうかしたか?」
「いや、何も無い」
顔を近づけてくるジルの視線に恥ずかしくなって顔を横に逸らすと、フッと笑ったのが分かった。
二人で腰掛けているソファの前のローテーブルには三分の一ほど欠けた馬鹿でかいホールケーキとぬるくなったホットミルク入りマグカップが置いてある。
暖房のきいた部屋の暖かさのせいか、それともケーキを食べたせいか。頭はどこかボーッとしている。
「ベル、眠ぃの?」
兄の問いかけにわかんない、と返せばひんやりしたジルの手が頬に触れて思わず声が漏れた。
「んっ・・・ジル、手冷たい」
「しししっ」
イタズラっぽく笑うジルの手の冷たさがどこか気持ちよくて自分の手をそっと重ねて目を閉じる。
すると、もう片方の頬にも手が添えられ目を開くとジルの顔が近づいてきて吐息の触れる距離で視線が交わる。
「ベル」
「・・・なに?」
「可愛い」
え、と開きかけた唇にジルのそれが重なる。
もう一度目を閉じて、角度を変えて何度も重なる唇の感触に酔いしれる。
「・・・っ、んぅ」
「・・・甘、・・・っ」
息が苦しくなってきて酸素を求めて開いた口に熱い舌が入り込んできて自分の舌を絡めとられる。
歯列をなぞり、上顎をくすぐられて、また舌を絡められる。
熱く濃厚な行為に背筋がぞくぞくと震える。
胸板を叩いて苦しさを訴えれば、濡れた唇から繋がる銀色の糸がプツリと切れた。
「はっ・・・はぁ、っ」
胸板にもたれかかって呼吸を整え顔を上げると
舌なめずりしたジルの長い前髪の間から、濡れた鋭い瞳がこちらをみつめていた。