微熱ト戯言。
□嘘つき
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怒ったような、哀しいような、疲れてしまったような、飽きてしまったような、
そんな繰り返した
夜の中で…
▼嘘つき
「…っうぁ」
口元を押さえ、低く唸る様に喘ぎを洩らす自分の下の身体に、怒りをぶつける様に強く打ち付ける。
引き吊るような声を出すその喉元は、快感か痛みか、小さく震えていた。
「…ひっ…っぁ、は…」
「いーたん」
「や、ぁ…あ」
髪をグッと掴み、顔を持ち上げると、彼の顔は恐怖に歪む。
そんな顔をさせているのが自分だということに、何故だか今は何とも思えなかった。
ああ、もう。
「いーたん、いーたんいーたん。」
「…っな、」
「玖渚って。」
ビクン、と彼の身体が揺れる。動揺か、緊張する様に四肢が強張るのが、彼を組み敷く自分には良く分かった。
「玖渚って、お前のなんなわけ?」
「い…ぁあっ…あ…っ」
身体を、心を抉るように、ぐっと体重をかけて彼を圧迫する。
見開かれた瞳が、自分の上の天井をぐるぐると往き来していた。
目尻から流れて髪を濡らす涙。
透明の、彼の心。
「や、ぁ…ろざき…ぜろざき…」
「俺って、お前のなんなわけ…?」
「ひ、ぁあっ…あ、──」
彼の身体が大きく揺れて、引き吊る叫びを上げると立ち上がった彼自身が悲惨に弾けた。
大きく肩を揺らしながら、落ち着けようと無理矢理な呼吸を繰り返す。
「…っふ、あ…」
「なあいーたん」
俺は─…
俺は、お前の
なんなんだろう─…。
苦しげに呼吸をする彼の唇に自分のそれを合わせ、彼の息を奪う。
頑なに閉じる瞳が、
拒絶を表していた。
強く握られたシャツが、弱く哀れに肩を押してくる手が、眉間に寄った皺が、零れ堕ちる涙が──…
助けてと、さよならと、
静かに告げていて、
「いーたん」
さよならをするのが
怖かった俺は、
「いーたんいーたん」
君から光を奪った。
君から心を奪った。
君から愛を奪った。
さよなら、いーたん。
end.