微熱ト戯言。

□だってそれ以外何も言うことはないじゃない。
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▼だってそれ以外何も言うことはないじゃない。


「なんで居るんですか哀川さん」
「あたしの事は潤Specialと呼べ」
「で、秋川さんよ」
「零崎くん君はそもそも名前を間違えてるぞ」
「だからなんで居るんですか哀川さん」

そんなこんなで。

何故かぼくの住むこの骨董アパートに哀川潤が居た。

突然現れるのはいつも通りだとしても、零崎が家に来ている時に来ると言うのは初めての事。

況してや持ってきた手土産が三人分ともなれば、潤さんが零崎の存在を知ってわざわざこの時間に来た事は間違いないだろう。

「まあまあ二人ともつれない事ばっか言ってねぇで、ちょっと聞けや」

出来ればあまり聞きたくない。
何故なら哀川潤の事だから、また無茶苦茶な事を叩きつけてくるだろうから。

そんな事は今更ながら勘弁だ。

だがしかし話を聞かなければそれはそれで痛い目に遭わされるのは目に見えていた。

…だったらぼくにどうしろと言うんだ。

「今日はお前達二人にちょーーっとした頼み事があって来た。まあ命の恩人であるあたしの頼みを利かないなんてそんな無礼で戯言のような傑作な奴等が居るとも思えないからの頼み事なんだけどさあ…」

「………傑作だ…」
「……戯言だろ」

影でぼそりと呟き、潤さんにバレない程度に大きく溜め息を吐いた。

「また女装ですか」
「そうだ」

そうなの!!?
そうなんですか!!?

冗談で言ったつもりの言葉を肯定され、思わずたじろいだ。

「ぼくもう女装はしませんよ。零崎が独りで女装するらしいですから、後は任せましたぼくちょっと夕飯の買い出し行ってき「待て」」

………。

「逃げるのかいーたん?零崎くんはもう喜んでその身を捧げてくれてるぜ?」

「いや、潤さんが首を絞めてるから逃げられないだけだと思います。」

「ごちゃごちゃうっせえぞいーたん。あ?手前は手前の命の恩人の頼みもきけねぇのか?おい、戯言遣いさんよお…」

寧ろ潤さんに出会ってから危険に晒される事が多くなってる気がするのは気のせいでしょうか潤さん。

勿論、そんな事は口にしない。したら終わりだ。

「分かりましたよ…とりあえず話だけ聞かせて貰えませんか…」
「よし来た!」

現金な奴め。

潤さんは零崎の首からパッと手を離し、ガツン、と零崎が床に頭をぶつける音と共に盛大に立ち上がった。

「百聞は一見に如かず!!千聞とてまた叱り!!いーたん、まずこれを着ろ!!!!!」

「おおっ…!!!」
「零崎ときめくな。」
「だって!!!!」
「だってじゃない」

じゃーん、とわざわざ声に出して、哀川潤は俗に言うメイド服を何処からともなく取り出した。

またメイド服…?
ぼくこのネタもう飽きたんだけど。

この物語を書いている人間(神?)が居るのだとしたら、それはきっと悪趣味で偏執的な変質者なんだろう。

ああそうだきっとそうだ。

「それで、これをいーたんに着せると!!哀川潤の割にはいい趣味じゃねーか。」

「哀川さ…潤さんそれ、零崎も着るんですよね…?」

恐る恐る訪ねる。
零崎も巻き添えになって着てくれるなら、ぼく一人で悲しい目にあうよりはずっとマシな事だろう。

そう願いながら訪ねたのに対し、返ってきた返答は案の定冷たいものだった。

「いんや、零崎くんは着ないぜ?こういうのやっぱ可愛い子が着なきゃな!!」

「だったら零崎の方が適役ですよ」
「やめろいーたん想像しただけで気色悪い…」

「つー訳でいーたんに拒否権なし!!さあ自分で脱ぐかあたしが脱がすか零崎くんに脱がしてもらうか、どれか一つ選べ!!!」

「俺が脱が「自分で脱ぎます!!!!」」
「積極的だないーたん」

違う。
零崎に脱がせてもらうのが恐ろしすぎるだけだ。

況してやメイド服を着せようとキラキラと目を輝かせている零崎の事だ、潤さんが部屋に居るとはいえぼくの身の安全には繋がらないだろう。

「それ、貸して下さい。着ればいいんですね?」
「ほらよ」

………。
…、ピンクのフリフリじゃなかったのは不幸中の幸いだけれど、黒と白のみで構成されたそれは、決して京都で見掛けるような物ではない。

新宿池袋秋葉原。
そんな所でしか人が着ているのを見掛ける事は恐らくないだろう。

もしくは、地方のイベント等。

「……着替えるので後ろ向いてて貰えませんか」
「えー」
「やだ」
「零崎」
「やだ」
「潤さん!!!!!」

すがるように潤さんを見詰めると、潤さんは苦笑して零崎の肩をぱんぱんと叩いた。

「後ろ向いてようぜ零崎くん。いーたんが着てくれないなんて言い出したら大変だ」
「成程。」

そう言って背を向ける二人。なんなんだ本当にこいつらは。

まあ、いいや…。

ボタンに手をかけて、肩から衣類を取り払う。
まじまじとメイド服を見詰めて、ぼくは溜め息を吐いた。

…仕方ない。
潤さんの命令に逆らえる筈が無いんだ。

そし て。

着ましたよ。
着ましたけど…。

「潤さん、なんかこれ、短くないですか?」
「間違いなく気のせいだろ」
「そう…ですか」

膝上30pの何処が短くないと言うんだ。

「い、」
「なに、零崎」
「いーたんチラリズムっっっ!!!!!」
「黙れっ!!」

ああもう恥ずかしい。
そうだ、百聞は一見に如かず!!!
潤さんはそう言ったんだ。

「潤さん、目的はなんですか。頼み事ってそもそもなんなんですか?」
「確かに。」

「目的?ああ、すまん。端的に言うなら、あたしの趣味?願望?そんな感じだ!!文句あんのかコラァッッ!!!」

逆ギレっ!!?!
って言うか意味わかんねぇよ理由!!!!

「じ、潤さん、どういう事ですか。要するに潤さん、ぼくがこの服を着たのはただ単に潤さんが見たかったからなんですか!!?」

「あっはっはいーたん騙されたなあオイっ!!!」
「潤さん!!!!」

「まああれだ!!あたしはもう満足したからいーたんは零崎くんとイチャラブしやがれ!!!」

「ありがとう人類最強!!」
「零崎っ!!?」
「んじゃね〜っ☆」
「潤さ…っ!!?」
「さあいーたん俺とイチャラブパラダイごぶぁっ!!」
「今すぐ脱ぐ!!!!」



零崎なんて京都御所の警報に引っ掛かって捕まって一生牢獄で過ごせばいい。

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