微熱ト戯言。

□DAYS×DAYS×DAYS
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『DAYS×DAYS×DAYS』

これはぼくが零崎人識と出会い、匂宮出夢に出会ってから匂宮出夢が無惨な死を遂げる7ヶ月前の話である。


ぼくは、今日が何の日かを知っていた。
ぼくの誕生日だ。

いや、太宰の「人間失格」風に文頭を進めたのに、大した理由はない。

あるとすれば、今目の前に零崎人識が居ること位だろう。

それからその零崎と、

「いや、何だかんだ言ったって零崎、5年前は…あれ?4年?3年?もしかして6?まあいいや、数年前は僕達あんなに仲良しだったんだ、今更再会のちゅーくらい何ともないだろ?」

「…」

「それとも何か?今は大事な大事な恋人がいますってか!ぎゃはは、お子さまかお前は!!」

「何でお前がここに居るんだよ…」

「昔はあんなに熱烈に愛を囁いてくれたってのによお!所詮過去の話、お前とはもう終わったんだ、か!」

「熱烈に愛を囁いた覚えなんてねぇよ。なんでお前がここに居るんだって。」

とかなんとか、周りからすれば痛すぎる過去の話を持ち出す匂宮出夢がいるせいだろう。

ぼくは今日という日の主役の筈なのに、なんだか除外されていた。

「あのさ、なんか二人とも久しぶりの再会みたいだし、ぼくは帰るよ。二人でゆっくりして?」

繰り返そう。
ぼくは、今日が何の日かを知っている。
─ぼくの誕生日だ。

場所は駅前のカフェ。
窓際に出夢くんと零崎、そして零崎の隣にぼくだ。

「は?お兄さん、何つれねぇ事言ってンだァ?誕生日だってから祝ってやるって言ってんだ、本人が居なきゃ意味ねぇだろ」

「お前のせいだろ。いーたん、こんな奴相手にしなくていいからな」

だから、入る隙もないじゃないか。
とはまあ、口には出さなかった。

なんだかいつも一緒にいる零崎すらも遠く感じる。

「…じゃあさ、とりあえずうちへ帰らない?ここに来たのは出夢くんがぼくの家を忘れたからで…なんだか落ち着かないんだよね、公共の場って。」

「確かに。出夢が騒ぐからさっきから周りに見られてる気がするし。」

言いながら、零崎は辺りを見回す。
言うまでもなく、それは確かだった。

「いーたん宅でいいのか?俺、プチホームレスだし、出夢ん家は県外だろ?」

「うん。ちなみに出夢くん、今日の交通手段は?」

「ん?ひみつ。」

「あっそ。」

今度は海を渡るのかな。
もちろん興味本位。

何となく零崎を無視した様な気分だったので、ぼくは零崎を見て笑った。
それから、「うちでいいよね?ちょっと…いや、かなり狭いけど。」と出夢くんへ。

「構わねーよ。僕は嫌いじゃねーしな、そういうの。」

話は早い方がいい。
ぼくは早速立ち上がって、「じゃあ行こう」と言った。

気後れしながらも、当たり前のように零崎がコーヒー代を出すと言ったので、それに従った。


家へ着くと、零崎が出前を取ると言い出したのには、さすがにぼくも驚いた。

「安心しろよ、金はいーたんには払わせねぇから。」

だそうで。

いや、そっちの方が安心出来ないってば!!

「い、いいよ!出すって!誕生日なんて年に一回必ず誰にでも来るモノなんだしっ!!」

と、声を荒らげたのは、零崎がピザ、寿司、デザートをまとめて頼むと言ったからだ。

結局、ぼくの努力の末、代金は三人で割勘と言うことになった。

「ぃよっし、じゃあお兄さんの誕生記念って事で、零崎、腹踊り!」

「するかっ!」

零崎はマジ切れだった。

それからぼくらは、ぼくらの…否、出夢くんの気が済むまで騒ぎまくった。



「……、─………」

ぼくは、零崎と出夢くんの話し声で目が覚めた。
後方で声がする。

携帯電話で時間を確認して、誕生日会の途中だったと思い出す。

午前1:35。

気付かぬうちに眠ってしまったらしい。
二人はぼくが起きた事には気付いていないようだ。

「…ずむ、…やめろって…いーたんが寝てるだろっ…」

「……?」

あ、れ?
修羅場…?

「平気だって。零崎」

「いっ…馬鹿、マジでやめろってば…起きたらどうすんだよっ…!」

「どうにかする」

「…っ」

え?
マジでヤバいですか?

ぼくは自分の鼓動が大きくなっていくのを感じた。

これ、起きた方がいいのかな…。
いや、でも零崎が…。

「ぅわっ…っ馬鹿…」

「…ッ」

思わず息を詰まらす。
背後で、一瞬の沈黙があった。

「……、いーたん…?」

零崎の恐る恐るな声。
後悔。
失敗した。

「起き…て、る…?」

肩が震えた。
寝たフリ。
心臓が大きく跳ねる。

「お兄さーん…?」

「出夢、どけよっ…」

そして、零崎の床を這う音。ぺたぺたと。ひたひたと。

目の前が暗くなったと思うと、零崎の手がぼくの目の前に着かれた。

横向きに寝たぼくの真上に、零崎が覆い被さる。

「…っ」

「いーたん」

「……ごめんっ」

ぼくは思わず謝る。
零崎は不思議そうに「は?」と首を傾げた。

「い、いーたん?」

「ごめん、ぼく何も見てないからっ…」

馬鹿野郎、これじゃあ見ていましたと言ったようなものじゃないか。

「あ、いや、その…」

挙動不審もいいところだ。
ぼくは弁解を続ける。

「あのね、えっと…別に気にしてないからっ…ぜ、零崎にだって色々と事情が」

「……あー…いーたん、何か勘違いしてない?」

「え…?」

「出夢が…ケーキをつまみ食いしようとして…」

「…はい?」

つまみ食い?
なんで?

ぼくは零崎を押し退けて、出夢くんの姿を探した。

……。
出夢くんは。
「HAPPY BIRTHDAY」と書かれたケーキを、つまみ食いしようとしていた。

「ぎゃはは、みっかっちまったな、零崎!」

「お前だっ!」

零崎が怒鳴る。
え?

「いーたんに秘密で、驚かせようって思って買ったケーキを、出夢が…」

「…あ、」

成程。
把握した。

なんだか、ぼくはとんでもない勘違いをしてしまったらしい。

まさか、ね。

「な、なんだぁ…も、びっくりしたぁ…」

ホッと胸を撫で下ろす。
出夢くんが、可笑しそうに笑った。

「お兄さん、一体全体どんな勘違いをしたんだ?顔が真っ赤だぜぇっ?」

「…」

うるさいな。
ぼくがそう言うと、再び鼻で笑った出夢くんが零崎と同じように四つん這いで寄ってくる。

「もしかしてお兄さん、ぼく達がこんな事してると思ったの?」

こんな事。
出夢くんが零崎に、不意討ちのキスをした。

「…っ!」

思考停止。
それは零崎も一緒だった。

「…っ出夢!てめぇぶっ殺す!!」

零崎が動き始めても、ぼくの身体は硬直したままだ。

え、あの、カフェで再会のちゅーがどうとかって言ってたの、冗談じゃなかったの?

「いーたんが固まってンだろ!!いい加減にしろよな、お前っ!」

「ぎゃははっ!お兄さんにはまだ刺激が強かったかぁ?」

いや、あの、…はい。

びっくりした×2。
驚いた。
驚愕。

「そ、そうだいーたん、ケーキ!ケーキ食おうぜ!」

こんな必死な零崎は初めてみた。なんだか零崎が可哀想な気がしてきたぼくは、素直に従った。

「出夢くんも、おいでよ。」

「お前はくんな」

「零崎っ…」

「ぎゃははっ!零崎怒られてやんの!!」

出夢くんは零崎を指差して笑った。
…なんかもう、どうでもいいや。

「…零崎、切り分けてくれる?出夢くんは待ってて」

「りょーかいっ。」

「均等に分けやがれよ零崎!」

「うっせーよお前は!もーいいから黙ってろよ」

なんだか二人のキャラ変わってないか…?
物凄くやりにくい。
昔からこうなのだろうか。

ぼくは零崎にナイフを手渡す。零崎は慣れた手付きで(当たり前だ)ナイフを扱い、ケーキを切り分けた。

「ほい、いーたん。特別に一番でかいのな」

特別って…。
いつでも零崎はぼくに大きい方をくれるじゃないか。

「ありがと。」

「いえいえ。あ、出夢!俺の苺取ってンじゃねぇ!」

「ぎゃははっ僕の苺あげるから我慢しろよ!」

「だったら最初から取るな!!」

騒がしい。
悪い意味ではないけれど。
なんというか、二人は本当に仲が良かった。

後になって零崎に同じ事を言うと、「あれの何処が仲良しに見えるんだよ」と、迷惑そうに言われた。

今日位、ぼくも気を抜いたっていいんじゃないか?

…いや。

ぼくは皿に盛られたケーキをつつきつつ(言いにくい)、二人の顔を交互に見た。

ぼくはダメだ。
ぼくはこうは笑えない。

…落ちそうになった気分を盛り上げようと、ぼくは頭を振る。

今日は誕生日だ。
別に誕生日だからと言うわけではないけれど…寧ろ誕生日なんて口実でしかないのだけれど。

ぼくは今日という日を楽しむべきだ。

何より友人が、二人も来てくれているのだから。

「零崎、出夢くん、今日はありがとね。こんなに明るい誕生日、初めてだよ」

ぼくがそう言うと、零崎が照れくさそうに頭を掻きながら、

「来年も再来年も一生祝ってやんよ。日付、もう変わっちまったけど…誕生日おめでとう」

そうして手渡されたのは、映画のチケットだった。
しかも、ペア。

「やっぱり、芥川より太宰だよな」

『人間失格』だった。

「ありが…とう」

「どいたま。」

「…一緒に、見に行こうね」

ぼくは零崎に笑いかけた。
嬉しい。

零崎はもちろん、とぼくの頭を撫でた。

「おいおいおい、僕のこと忘れてもらっちゃ困るぜ?お兄さん、ほらよ」

「…?」

小さな箱だった。

「婚約指輪、じゃあねぇぜっ?ぎゃははっ」

「……」

開けて見ると、それはオルゴールだった。
曲はデビットボウイの『yassassin』。

…選曲微妙だよ…!!

「ありがとう…」

なんだか出夢くんらしくもなく女の子みたいな誕生日プレゼントだとは思ったけれど、yassassinだった所が外さない。

…いや、マジでスゴいんだって。

「二人ともありがとうね」

感謝。
ぼくは、零崎と出夢くんに貰ったプレゼントを大事に抱え、微笑んだ。

そういえば巫女子ちゃんの携帯電話の着信音がデビットボウイだったな、とか思いつつ。

ありがとう。
ぼくはもう一度そう繰り返した。

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