物語は不動ノ運命により
□だから俺は…
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見上げれば──…
「星なんて見えないじゃないかローランサン」
「…ああ」
呆れたように窓越しに空を見上げたイヴェールは、小さく溜め息をついて此方に向き直った。
「君が今日は七夕だとか言うから期待していたのに」
浪漫主義な相棒は、誰のせいでもない天候を恨むことはせず、七夕だと教えた自分を恨むらしい。
なんて勝手な奴だ。
「でも」
「あ?」
「織姫と彦星は幸せだな」
「…急にどうした。愛すべき人間がいることが羨ましいとか言うんじゃないだろうな」
イヴェールは蔑むような表情で苦笑し、その通りだよ、と小さく漏らした。
何故だか時々、こいつは酷く哀しそうな顔をする。
境遇を考えれば当然なのかも知れないが、少なくとも見ている此方としては痛々しく見ていられないものがある。
「…守るものがあると、強くなるとはよく言ったものだ。結局は何事にも終わりが来ると言うのにな」
浪漫主義、か。
こいつは物語を肯定して生きている。
それが幸せなことなのか、不幸せなことなのか。
「くそ、なんだからしくないな。やめた。僕はこのままでいいや」
ぽい、と投げ捨てるように。
口調は明るかったけれど、全てを放棄したように言うイヴェールが痛々しい程に感傷的で。
「…イヴェール」
「なんだ?」
彼の銀色の髪を撫で、流れるように頬に手を添える。
「帰りたいとは…思わないのか…」
「………何処に?僕の居場所はもう…」
だったら。
だったら俺がお前の居場所に成れば良い。
各々違った色の瞳を真っ直ぐに見詰めて、密かにそう思った。
けれどその想いは自分の考えている以上に大きなもので。
長く伏せた睫毛。
眉間に寄った皺。
緩く噛み締めた唇。
苦悩の表情だ──…。
髪をかきあげるようにイヴェールの頬を持ち上げ、赤く染まった唇に自分の其れを重ねる。
「…ッん」
驚いたようなイヴェールを黙認し、舌先で口内を弄ぶ。
精神的でなく苦しそうに表情を歪めるイヴェール。
胸元のシャツを握る手が、小刻みに震えていた。
「…ッは…サン、…ローランサン、待っ…」
覗き見ればイヴェールの瞳は赤く潤んでいて、締め付けられるような思いが。
泣き出してしまいそうな程に隙間から吐息を漏らすイヴェールは、一筋の涙を境に自分から舌を差し出すように絡めてきた。
「んッ…」
本当は、思い切り泣いてしまいたいんだろうな…。
ほんの一時でも、躊躇い無く涙を流せる時間が。
こいつにあればいいのに。
「イヴェール」
「…ん、…」
す、と。
首筋に舌を這わせ、なぞる様に鎖骨を撫でる。
はだけたシャツの隙間から、イヴェールの太陽を知らないような真っ白な肌が覗いた。
「痛ッ…」
首筋に歯をたて、痛みを与えては優しく撫でて慰める。
なんて残酷な物語。
耳元で低く囁いた言葉は、慰めでもなく優しい言葉でもなく。
ただ一言、ごめん、と。
されどイヴェールの瞳からは大粒の涙が零れ堕ちて、深く刻まれた眉間の皺は、より一層深くなった。
「…っく…」
しゃくりあげるイヴェールを強く優しく抱き締めて、今年もまた二人は出会えないのかと、そう思った。
けれど、確かにお前の言うように。
愛すべき存在があることは、幸せだ。
「イヴェール、」
だ
か
ら
俺
は
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