物語は不動ノ運命により
□君が居なくなる夢
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冷たい風の吹くある夜、
何故だか分からないが相方であるイヴェールは何かに怯えるように俺にすり寄って来た。
『君が居なくなる夢』
始めは珍しいな、と茶化していたのだが、それでも離れようとしないのはイヴェールの性格では有り得ない。
しかし今その有り得ない現象が起きているのだから、不思議なものだ。
「おいイヴェール、いい加減離れろよ」
「…なんで」
「なんでってお前…」
此方の台詞だっつーの。
別に嫌な訳でもないし、普段見れないイヴェールと言うものを見ているのだから寧ろ喜ぶべきなのだろうが、生憎そんな事で喜んだりはしない。
嫌じゃない。
ただそれだけだった。
「僕が近くにいちゃダメ?ローランサンは冷たいね」
「なんだそれ…」
「だってそうじゃないか。君はさっきからずっと嫌そうにしているし、夢であんなこと言うし…」
「…夢?」
そこでハッとしたように顔を赤らめるイヴェール。
夢?変な夢でも見たのだろうか。
風に靡くイヴェールの銀髪から、風呂上がりの優しいシャンプーの匂いがした。
ああ、何か寒いと思ったら窓を開け放したままだったのだ。
腰を浮かせ窓を閉めながら、再びイヴェールに問う。
「夢ってなんだよ。俺が何かしたか?」
悪戯染みた笑みを浮かべながらイヴェールを覗き込むと、イヴェールはムッとして後ろを向いた。
「別に、君には関係ないじゃないか」
「関係ない訳でもないだろ。言えって」
「…やだ」
「はあ?言えないような夢を見たわけ?」
少し意地が悪いとも思ったが、予想通りイヴェールを振り向かせるには最も良い手段だった。
風を切る音を立て、勢い良くイヴェールは振り返る。
「そんな訳…っ!!」
振り向いた顔を一気に引き寄せ、
「無いんだ?」
「……っ」
驚いたイヴェールの顔が、真っ赤に染まる。
泣きそうに歪むイヴェールの唇と自分のそれを重ね、緩く抱き締めた。
「…っん…っ離、せっ…」
トン、と突き放され、馬鹿じゃないのか、と罵声を浴びながら、イヴェールの初々しい反応に笑いを堪えられなかった。
「笑うな変態!!」
…。
…………?
………変態?
「…っ誰が変態だコラ!!」
「君に決まってるじゃないか!!変態、それもものすごい変態に決まってる!!」
こ、こいつ…。
自分の顔がひきつるのを感じながら、俺は苦笑した。
「変態ってそもそも何だよ。お前の中ではキスした奴は変態だと」
「ちゅーが悪い訳じゃないっ!!ただ、君がするとなんか…淫らと言うか…その」
もごもごと口の中で呟くイヴェール。
顔を赤く染めながらも文句を言ってくる様子が何だか愛しい。
上目遣いで此方を睨みながら、イヴェールは瞳を潤ませた。
「…っ変な事言わせるなよっ、馬鹿。」
「はいはい。泣くなって。」
「泣いてない!!」
泣いてんじゃん。
そう思ったが、これ以上苛めると本当に泣き出しかねないので言わずにおく。
「で、どんな夢見たんだ?」
「……君が、居なくなる夢」
暫く不満そうな表情で此方を睨んでいたイヴェールは、はぁと小さく溜め息を吐いてそう呟く様に言った。
「急に、さよなら、って言ってきたから…」
「…根拠も突拍子もない夢だな…」
「だって…っ」
「だから泣くなって。」
再び瞳を潤ませたイヴェールの頭を撫でてやり、励ます様に抱き締める。
身体が心なしか温かくなっているのは、涙のせいだろうか。
本格的にしゃくり始めるイヴェールに苦笑し、大丈夫だよと優しく囁いた。
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