物語は不動ノ運命により

□「背中合わせ」
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涼しい風が窓から吹き込む夜、ただいまと宿へ帰った俺を迎えたのは無表情のまま此方を見る、イヴェールだった。

▼「「背中合わせ」」

薄く開いた窓口から吹く風はとても優しく穏やかなのに対し、イヴェールが不機嫌であることは一目瞭然で、部屋へ戻った途端に押し掛ける空気と言うのは重苦しく乾いた嫌なもので。

多少機嫌を損ねた程度ではあからさまに不機嫌な顔をするイヴェールの癖を知っている自分としては、どんな感情をも持たないその表情が酷く恐ろしく思えた。

「……、」

どうして良いのかも分からず、左手に抱えていた荷物を脇に寄せてからイヴェールの横に座り込んだ。

イヴェールはいつも窓辺に座っていて、風のある夜であれば美しい銀髪が緩く棚引いている。

月に反射する双眸色の違ったオッドアイが射抜く様に鋭く此方を見、何か言いたげに口を開くが、その口から言葉が漏れ出る事は無かった。

ただその瞳が此方を見たままなのは相変わらずで、居たたまれない気持ちになった俺は苦笑して相方の名を呼んだ。

「イヴェール、」

頬に触れようと伸ばした手を拒絶するように首を傾けたイヴェールに、少なからず心が痛むのを心の奥底で感じていた。

無言なままに、イヴェールの怒気であろう刺々しい感情が空気越しに伝わってくる。

「なんで怒ってんの?」

「…怒ってない」

漸く口を開いたイヴェールの声は震えていて、彼の抱えている感情が怒りだけではないことを悟った。

「じゃあなんで…」

なんで、

なんで泣いてるんだよ。

「イヴェール」

「…ッや」


「え……?」


優しく掴んだ筈の肩を震わせ、拒絶の音を漏らしたのを聞き逃す筈もなかった。
ああ、多分自分は今酷く情けない顔をしているに違いない。

無表情だった顔を哀しく歪めて、イヴェールは流れ落ちる涙を拭いもせずひたすらに何度も首を左右に振った。

拒絶、された。
それも二度。

機嫌を損ねていたのはイヴェールの筈なのに、気付けば自分の心が折れそうになる。

泣きながら何かを訴えるイヴェールを直視出来ない。

ああそうか、俺、ついに嫌われたかな…。
もしかしたら愛想を尽かしたのかもしれない。
俺が男だから?
俺達が、男だから…。

仕方ないよ、な。

「あ、はは…」

思わず笑いが漏れた。
自嘲の笑みか。

思えば男同士でここまでやってこれたのがおかしいことなんだ。
そうか、そんな簡単な事だったのか…。

「ごめん、俺…」

さよなら、か。
次に告げるべき言葉は決まっていた。
後は、声に出すだけ…。

「俺…、」



























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