Short Story
□水面波(ミナモナミ) 後編
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今までの中で、一番緊張して、ものすごい覚悟をして迎えた誕生日当日。
―――急な出張が入った。
そう、あっさりと彼は言った。
水面波(ミナモナミ) 中編
「―――はい?」
つい、そう問い返していた。
日番谷はぽかんとした乱菊の様子に、相変わらずの無表情で。
「現世で虚が頻繁に出没している場所があるらしい。数も多いようだから、俺も行くことになった。」
と、それだけを説明した。
「あ、あぁ、!そうなんですか!!」
事情を飲み込み、乱菊はとりあえずそう相槌をうった。
今から現世に発って虚退治―――ということは、少なくとも戻ってくるのに丸一日はかかる。
いつもなら、せっかくの誕生日なのに!と文句をつけるところなのだが。
―――正直なところ、乱菊はかなりほっとしていた。
だが。
こっそり安堵の溜め息をつく乱菊を、日番谷は目ざとく―――というか最初から予想していたらしく。
「・・・・・・・・・・・・お前、ほっとしてるだろ。」
「ぅええぇえ!!?」
冷ややかな口調と眼差しでそう突っ込まれ、乱菊は飛び上がった。
的確すぎるほどに図星を付かれ、取り繕うこともできない。
あ、だとか、う、だとか口をぱくぱくと動かしてうろたえる乱菊に、日番谷は深々と溜め息を付いて。
「言っとくが、俺は約束を違える気はねぇからな。」
明快なまでに、きっぱりとそう言い切り―――その言葉に、乱菊はカキンと固まってしまった。
椅子から立ち上がって近づいてくる日番谷に咄嗟に後ずさるが、そのままじりじりと壁際まで追い込まれてしまう。
まさに蛇に睨まれた何とやら、の状態だった。
骨ばった大きなその手が頬に触れ、びくっと体が震える。
日番谷はその様子にすっと目を細めて。
「―――夜までに終わらせて戻ってくる。」
そう宣言した。
乱菊はぎょっと目を見開いた。
「よ、夜までって!た、隊長!いくらなんでもそんなの無理ですよ!!」
「そう思うのはお前の願望だろう?少なくとも俺は今まで、無理だと思ったことを軽々しくできると口にしたことは一度もねぇ。」
「た、隊長・・・。」
心底困ってしまって、乱菊は半ば助けを求めるような気持ちで日番谷を見た、のだが。
彼の行動は乱菊を救うどころか、さらに追い詰めるだけのものでしかなかった。
頬に触れていた手が、顎を掴む。
そのまま、彼の端正な顔が近づいてきて―――。
「た、たい・・・っ!」
―――そのまま、唇が重ねられた。
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