Ash&Snow
□Ash&Snow 3
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―――私は”死神”です。
と、女は言った。
Ash & Snow 3
「・・・・・・・・・・・・・・・はぁ?」
冬獅郎は思わず、それだけを口にしていた。
というか、それより他に反応の仕様がない。
つまり。
彼女の言い分はこうだった。
彼女は尸魂界と呼ばれる霊界に住む死神で、”虚”と呼ばれるいわゆる悪霊を退治するための任務を受けてはるばる現世にやってきたのだと。
説明だけなら、話は単純すぎるほどあっさりとしたものだったわけだが。
「信じられませんか?」
眉間にしわを寄せたまま黙り込む冬獅郎に、女は苦笑したようだった。
その微笑みに、なんとなく落ち着かない気持ちになった。
何というか―――さっきまでは驚きと動揺でそれどころではなかったわけなのだが。
こうして落ち着いて見てみれば、彼女の姿はやけに目に毒なものだったのだ。
自らを死神だと名乗るその女は、贔屓目に見てもひどく浮世離れしていて―――美しい容姿をしていた。
豊かに波打つ金色の髪は暗がりでも目に眩しく、蒼い瞳は吸い込まれそうなほど神秘的な色彩を放つ。
女性らしいその蠱惑的な肢体は、体の線を強調させないはずの着物の上からでもはっきりわかるほどで。
さらに胸元は大きく開かれ、その豊かな乳房が強調されている。
だが―――何よりも冬獅郎をうろたえさせているのは、彼女の仕草にいちいち何か懐かしさにも似た胸のざわめきを感じるという一点だった。
おかしい、と冬獅郎は思った。
これまで、どんな美しい女を見てもこんな風に感じたことなどないはずなのに。
冬獅郎は、とにかく冷静になろうと首を振った。
「・・・正直言うと、かなりうさんくせぇ。突拍子がなさ過ぎる。」
「まぁ、そうでしょうねぇ。けど、嘘は言ってないですよ。」
あっさりと告げると、女はさっさと立ち上がった。
「おい?」
「説明はしましたし、もういいでしょう?私は任務に戻ります。」
踵を返そうとする女の手首を、冬獅郎は咄嗟に捕まえていた。
「待てよ。まだ聞きたいことが―――」
「聞きたいこと?いいですよ。何でも聞いてください。」
あっさりとそう返され、冬獅郎は逆に言葉を詰まらせた。
聞きたいこと?
自分は、これ以上何を聞きたいと言うのだろうか。
聞きたいことは、確かにあるはずだが―――何をどう聞けばいいのかわからない。
そして何より。
そんなことより何よりも―――彼女をこのまま行かせたくないと思っている自分に気づき、冬獅郎は動揺した。
そんな風に誰かを引き止めたいと思ったことなど、これまで生きてきた人生の中で皆無だったはずだ。
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