Ash&Snow
□Ash&Snow 5
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Ash & Snow 5
ざわざわとした朝の喧騒の中。
冬獅郎が教室内に足を踏み入れた瞬間、そのざわめきが一瞬止んだような気がした。
そんな反応も、日常茶飯事のことで。
冬獅郎は大して気にもせずに、さっさと教室の真ん中辺りに位置する自分の席へと腰を下ろした。
井上織姫が言った通り、クラスの奴らが自分に対して悪意を持っているわけではないことは言われなくてもわかっている。
ただ己の容姿が人目を惹きすぎるものなのだということ。
そして自分自身が何よりも他人と距離を取りたがっているからこそ、否が応でも彼らとの溝は深まり、余計に冬獅郎の目立ち具合に拍車がかかるのだ。
―――煩わしい、と冬獅郎は思った。
いつもならば、いくら冬獅郎でもそこまで突き放して考えることは決してできなかっただろうが。
自分へひっそりと向けられる好奇の視線も、自分のことを親身に気にかけてくれる一護や織姫も。
今日ばかりは、何もかもがひどく煩わしかった。
その苛々が、昨夜の―――夢としか思えないような出来事に起因していることは明らかだった。
自分の胸に、刃が突き立てられたあの一瞬。
あのときの感覚が何なのか―――言葉では到底言い表せられない。
失っていた何かを全て取り戻したかのような、それこそが本来の自分自身の属すべきもののような。
何かを掴みかけた気がしたのに、それは脆い砂の城のように一瞬で掻き消えてしまった。
あの、見た目にも美しすぎる金髪の女の存在も。
―――私の名前は、松本乱菊です。
綺麗に微笑んでそう紡がれた言葉の響きは、まだ胸の奥に残っているというのに。
その痕跡の欠片すら一つも残さずに、彼女は消えたのだ。
―――彼女は、尸魂界という場所に帰ってしまったのだろうか。
普段と何ら変わりのない日常。
こうしていると、昨日のことの全てが夢としか考えられなくなってくる。
というか、夢でしかないだろう。
あんな現実離れした―――荒唐無稽な出来事など。
昨日のことが現実だろうが夢だろうが、どうでもいいことだ、と。
冬獅郎は無理やりに自分を納得させた。
彼女も、そう言っていたではないか。
死神なんてものに関わるな―――今夜のことは忘れろ、と。
さっさと忘れるべきなのだ、きっと。
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