Lost Heaven

□Lost Heaven 7
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「・・・母さま?」


 日番谷の消えた家の中で。
 戸惑うように自分を呼ぶ声に、乱菊ははっとその体を解放した。
「ご、ごめんね、輪。」
 取り繕って微笑んで見せると、その子ども―――輪は色違いの無垢な瞳で乱菊を見上げた。
「ねぇ、母さま。今のお兄ちゃん、誰なの?母さまの恋人?」
 無邪気に尋ねてくるその様子に、乱菊は思わず苦笑する。
「・・・昔、私がお仕事してたところの上司よ。」
「じょうし?」
「えらい人ってこと。」
 乱菊がそう言うと、輪はなぁんだ、と呟いて。

「すっごくキレイなお兄ちゃんだったね。あたし、あんなにキレイな人はじめて見た。」
 もちろん、母さまは別だけど。
 ませた口調でそう言ってにっこりと笑う子どもの姿に、乱菊はようやく心が落ち着いていくのを感じた。 
「嬉しいこと言ってくれるわね、輪は。」
 特別に、夕ご飯は輪の好きなものにしよっかな。

 そう微笑みながら。
 乱菊はその小さな存在をもう一度抱きしめていた。




  Lost Heaven 7





 ―――暗闇の中。
 執務室の窓際で、日番谷は明かり一つ灯すこともせずにただそこに座り込んでいた。

 長いことずっとそうしていると、ふいにゆっくりと部屋の扉が開かれ―――黒髪の大柄な男が中に入ってくる。
 日番谷はその男に視線を送ろうとはせず、ただじっと一点を見つめ続けていた。
「ちょっと心配になったんだ。君の霊圧が乱れてたからね。・・・その様子だと―――」
 気遣わしげに紡がれる言葉にも、日番谷は顔を上げようともせず。
「松本だった。」
 その事実だけを、口にしていた。
 

 日番谷の言葉は、京楽にとって予想外だったのだろう。
「―――本当かい?」
 詰め寄る京楽に、日番谷は顔を俯かせたまま。
「あぁ。生きているその理由も、死んだと思わせた理由も、全部わかった。」
「・・・どういうことだい?」

 その問いかけに、日番谷はようやく―――ゆるゆると顔を上げた。
 さんざん躊躇った後、半ば投げやりに口を開く。
「子どもがいた。・・・俺の子だ。」
「―――何だってぇ!?」
 京楽が、珍しくも心底驚いたような声を上げた。



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