Ash&Snow
□Ash&Snow 14
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Ash & Snow 14
八時を告げる電子音に、二人はぴたっと言い争いをやめた。
しまった。
冬獅郎は自分の失態を恥じた。
こんなろくでもないことで本来の目的を忘れるなど。
「やばっ!ち、遅刻ですよ、日番谷くん!!」
てめぇのせいだろが!!―――とそう言いかけて、冬獅郎は思い出して乱菊の腕を掴んだ。
「待て松本!約束は守れ!!」
「はぁっ?・・・何のことですか?」
今にも部屋を飛び出そうとしていた乱菊が、拍子抜けしたように首を傾げる。
そんな女の様子に、冬獅郎は多大なる眩暈を覚えた。
「〜〜〜今、俺らが何のために言い争ってたのか忘れてんのか、お前は!!?」
「何のためって・・・・・・日番谷くんが意外に手馴れてて、それで私が傷つけられたってだけの話でしょう?」
「どんだけ事実を捏造してんだ、てめぇ!!身なりをきちんと整えろって話だ!!」
「――――――あ。」
思いっっっきり失念していました、という表情の乱菊に、冬獅郎のこめかみにピシッと青筋が浮かぶ。
「〜〜〜っ、いいからさっさと着替えなおしてこい!!」
「えぇえええー?今からそんなことしてたら完璧遅刻じゃないですかぁ?いいですよ、今日はもうこのままで!」
「ふざけんな!」
「だって、時間・・・・・・」
「そんなことより俺の心の平穏の方が大事なんだよ!!何のために俺がてめぇの条件飲んだと思ってやがる!!」
「何のためって・・・・・・私とキスするため?」
―――――――――ぶちっと。
何かの臨界点を超えてしまったような音がした。
これ以上ないほどの凶悪な感情に支配されながら。
冬獅郎はいっそ優しげに口元を歪め、言葉を紡いだ。
「・・・・・・松本。あまり俺を怒らせるなよ・・・?」
「じょ、冗談ですよっ!ややややだなぁ、もう。お、落ち着いてくださいよ。理性と忍耐が日番谷くんの美徳でしょう?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そんな言葉、今すぐお前ごと斬魄刀でたたっ斬って、どぶに捨ててやってもいいんだが?」
半分以上本気の決意表明をしてやると、乱菊がずざささっと後ずさりし。
「――――――き、着替えてきます!!」
脱兎の勢いで奥に引っ込んだのだった。
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