Ash&Snow

□Ash&Snow 14
1ページ/7ページ





  Ash & Snow  14




 八時を告げる電子音に、二人はぴたっと言い争いをやめた。


 しまった。

 冬獅郎は自分の失態を恥じた。
 こんなろくでもないことで本来の目的を忘れるなど。

「やばっ!ち、遅刻ですよ、日番谷くん!!」
 てめぇのせいだろが!!―――とそう言いかけて、冬獅郎は思い出して乱菊の腕を掴んだ。
「待て松本!約束は守れ!!」
「はぁっ?・・・何のことですか?」
 今にも部屋を飛び出そうとしていた乱菊が、拍子抜けしたように首を傾げる。
 そんな女の様子に、冬獅郎は多大なる眩暈を覚えた。

「〜〜〜今、俺らが何のために言い争ってたのか忘れてんのか、お前は!!?」
「何のためって・・・・・・日番谷くんが意外に手馴れてて、それで私が傷つけられたってだけの話でしょう?」
「どんだけ事実を捏造してんだ、てめぇ!!身なりをきちんと整えろって話だ!!」
「――――――あ。」

 思いっっっきり失念していました、という表情の乱菊に、冬獅郎のこめかみにピシッと青筋が浮かぶ。
「〜〜〜っ、いいからさっさと着替えなおしてこい!!」
「えぇえええー?今からそんなことしてたら完璧遅刻じゃないですかぁ?いいですよ、今日はもうこのままで!」
「ふざけんな!」
「だって、時間・・・・・・」
「そんなことより俺の心の平穏の方が大事なんだよ!!何のために俺がてめぇの条件飲んだと思ってやがる!!」
「何のためって・・・・・・私とキスするため?」

 ―――――――――ぶちっと。
 何かの臨界点を超えてしまったような音がした。

 
 これ以上ないほどの凶悪な感情に支配されながら。
 冬獅郎はいっそ優しげに口元を歪め、言葉を紡いだ。
「・・・・・・松本。あまり俺を怒らせるなよ・・・?」
「じょ、冗談ですよっ!ややややだなぁ、もう。お、落ち着いてくださいよ。理性と忍耐が日番谷くんの美徳でしょう?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そんな言葉、今すぐお前ごと斬魄刀でたたっ斬って、どぶに捨ててやってもいいんだが?」
 半分以上本気の決意表明をしてやると、乱菊がずざささっと後ずさりし。
「――――――き、着替えてきます!!」
 脱兎の勢いで奥に引っ込んだのだった。




.
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ