Ash&Snow
□Ash&Snow 1
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―――黒崎一護。
高校に進級して出会った冬獅郎のクラスメイトであり――――――友人、だろうか。
そもそも冬獅郎は極力人と関わろうとしない性質(たち)で、それ故に親しい仲間と呼べる者はこれまで一人もいなかったのだが。
黒崎一護も自分と同じように”見える”のだ、と気づいてから、二人の仲は急速に縮まった。
そして。
ただの不良かと思っていた黒崎一護は、話をしてみれば派手な見た目の割に常識があるし言うこともまともだし、意外なことに成績もいい。
それを言うと一護には、
「何言ってんだ、お前も似たようなもんじゃねーか。」
と、嫌な台詞を返されたわけなのだが。
すぐ頭に血が昇るところが難点だが、冬獅郎にとって彼はわりかし付き合いやすいタイプの人間だった。
「それにしてもお前とこんな会話ができるようになるとは、新学期始まった頃は考えてもなかったぜ。」
「あぁ?」
並んで歩きながら、一護がしみじみと言う。
「お前、最初の頃本っ気で”誰も近寄るな”オーラ出してたじゃねーか。まぁそれは今も変わんねぇけど。知ってるか?女子とかお前のこと”氷の王子様”って言ってんだぜ?」
「・・・・・・・・・・・・なんだ、そりゃ。」
冬獅郎は思いっっっきり顔をしかめた。
知らないところで、そんな気色の悪いあだ名で呼ばれているのか、自分は。
「けどよー。お前、本気で俺以外のヤツとも話したりした方がいいぞ。」
さらっと言われ、冬獅郎は眉を顰めた。
「・・・・・・大きなお世話って言葉知ってるか?自称・国語が一番得意な黒崎一護。」
「・・・・・・馬鹿にしてんのか?空座第一高校始まって以来の天才児、日番谷冬獅郎。」
お互いに前を向いたまま、無表情で軽口を言い合って。
それから、一護がやれやれと溜め息をついた。
「お前が俺の他でしゃべるヤツっつったら同じクラスの井上くらいじゃねーか。」
付き合ってんのか?
真顔で尋ねてくる一護に、さらに冬獅郎の眉間にしわが寄る。
「井上織姫はただの幼馴染だ。変な勘違いすんじゃねぇ。」
―――それに井上が惚れてるのは、お前だ、馬鹿。
さすがにそれは口には出さずに、心の中でだけ呟いておいてやる。
「お前って頑なだよなー。何そんな意地になってるのか知んねーけど。」
冬獅郎の脳裏に”おせっかい”という言葉が大きく浮かんだ。
「人を聞き分けのないガキみたく言うんじゃねぇ。俺はどうでもいい奴らに愛想振りまく気はねぇんだよ。」
「そりゃ俺だってそうだっつーの。けど、てめーのは行きすぎだ。お前、本気で俺以外にダチいねぇだろ。たかが幽霊が見えるってだけで、そこまで閉塞的にならなくてもいいじゃねーか。」
淡々とそう言う一護は―――多分、それなりに心配してくれているのだろう。
この少年が、見た目と態度からは想像できないほど甘い性格なのは、冬獅郎の知るところでもあって。
けれど―――その好意を素直に受け取ることができるほど、冬獅郎が抱えているものは単純ではなかった。
「・・・たかが、か。お前はそうだろうな。」
溜め息混じりに、冬獅郎は呟いた。
「・・・たかが幽霊が見えるだけで―――お前はそれでも、普通の人間だ。黒崎。」
「はぁ?当たり前だろ。」
「そうだ。お前が人間なのは当たり前なんだよ。・・・・・・けど、俺はそうじゃねぇ。」
きっと―――誰にも理解できない。
冬獅郎が抱えているものを。
彼自身ですらわからないのだから。
「・・・何なんだろうな、この感じは。ずっと昔からそうだ。俺は、お前たちとは違う・・・。俺はずっとこの街で暮らしてきたはずなのに、ここに馴染めねぇんだよ。ずっと違和感を感じてる。―――俺が、人間の姿をした化け物かもしれねぇっつったら、お前はどうする?」
「冬獅郎?お前、何言って」
喋りすぎた、と冬獅郎は思った。
今朝、夢見が悪かったせいだろうか。
やけに感傷的になっている自分がいた。
「―――いや、いい。今言ったことは忘れろ。じゃあな。」
「お、おい!冬獅郎!」
呼び止める声を背中に受けながら、冬獅郎は足早にその場を後にした。
後味の悪いような、苦い気持ちが胸の奥に広がっていく。
やはり、黒崎一護と関わってしまったことは失敗だったのかもしれない、と。
そう思いながら。
冬獅郎は足早に家へと向かった。
―――きっと、この世界の誰もが、理解できない。
俺が・・・生まれ落ちたそのときからずっと抱えている、この孤独を。
To be continued...