Short Story

□水面波(ミナモナミ) 後編
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  水面波(ミナモナミ) 後編






 恥ずかしい。
 恥ずかしすぎる。
 自分の部屋で、夜着に身を包んだ乱菊はそう頭を抱えていた。
 こうやって彼がやってくるのをじっと待っていなければならないこともそうだが―――それ以上に、本気で念入りに体中を洗い上げてしまった自分が、軽く死ねるくらいものすごく恥ずかしかった。

 あぁ。
 まさかこんなことになるなんて思ってもいなかったのに。
 というか、何でこんなことになっているんだっけ?
 額を抑えたまま、深〜い溜め息をつく。
 
 
 ――――――どうしても無理なら、逃げろ。
 

 躊躇いがちに、そう言っていた日番谷の姿を思い出す。
 ―――逃げろ、なんて。
 どういうつもりで言ったのだろうか、あの人は。


 多分、今の自分はものすごく困っていて―――彼に抱かれる覚悟など全くできていない。
 それでも、逃げようという気にはどうしてもなれなかった。
 彼が、最後の最後で自分に逃げ道を与えてくれたのだということ。
 そして―――このままでいたい、と思っていたのは実は自分だけで、彼はそうではなかったのだと気づかされたからなのかもしれない。

 だとすれば―――彼はずっと待っていたのだろうか、自分を。


 考えても考えても、どう行動するのが最善なのかなんてわからない。
 とにかく、ただ今は早く日番谷の顔が見たかった。

 彼に会って、話がしたい。
 そうすれば―――考えがまとまらない今の自分にも、何か答えが出せるだろうか。


 そこまで思ったとき。
 ふと、乱菊は時計に目を走らせた。
 只今の時間は午後十時過ぎ。
 ―――もうすぐ、”今日”が終わってしまう。

 夜までに戻る、と言った日番谷の姿が思い出される。
 やはり、それはさすがに無理だったのか。


 ――――――それとも、彼の身に何か起きたのだろうか。




 一瞬浮かんでしまった考えに、思考が停止した。
 まさか。
 乱菊は咄嗟にそれを振り払う。
 だが――――――一度浮かんでしまったその考えは、汚濁のようにじわじわと脳裏に浸透していって。
 とてつもない不安が、乱菊を襲った。




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