Short Story

□水面波(ミナモナミ) 後編
4ページ/6ページ







 ―――そのときだった。
 ガタリ、と外で何か物音がした。
 それと同時に、間違えようもない日番谷の霊圧を感じて。
 乱菊は慌てて立ち上がると玄関へ走り、扉を開けた。



 だが―――迎えたその人物の姿に、乱菊は顔を蒼白にさせた。
「た、隊長!?」
 闇の中佇む日番谷の姿は、それはひどい有様だったのだ。
 羽織の左肩から胸にかけてがざっくりと裂け、白い布地が真っ赤に染まっている。
 口を抑えて青ざめる乱菊とは裏腹に、当の本人はけろりとしたもので。
「大した傷じゃねぇ。」
 日番谷は事も無げにそう告げると、乱菊を押しのけるように家の中に上がりこんだ。
「は、早く四番隊に―――」
「いいっつってんだろ。」
 すたすたと、勝手知ったる家の廊下を進む日番谷に、乱菊は追いすがった。
「良くないです!こんな大怪我してて何言ってるんですか!!」
「もう傷は塞いだ。出血が多かったからひどく見えるだけだ。」
 掴んだ腕をあっさりと引き剥がされて、乱菊はむっと眉を寄せた。

「隊長、いい加減にしてください。注射を嫌がって駄々捏ねてる子どもみたいですよ。」
 日番谷が子ども扱いされることを何より嫌っていることを知っていて、敢えてその言葉を選んだ。
 予想通り、日番谷の表情に不穏なものが混じる。
「あぁ?よく言ったな。何なら今この場でガキじゃないって証明してやろうか?」

 虚とさんざんやりあい、気が昂ぶっているのだろうか。
 今の日番谷は普段からは考えられないほど乱暴で―――本気で乱菊の両腕を掴むとその体を壁に押しつけた。

「・・・・・・逃げなかったんだな、お前。」
 軽く笑いながらそう言われて。
 ――――――乱菊が感じたのは羞恥でも動揺でもなく、単純な怒りだった。



「―――逃げませんから!」
 乱菊は叫ぶとぐい、と日番谷の顔を引き寄せて――――彼に口付けた。
 日番谷の驚くような気配が伝わってくる。
 首筋に両腕を回し、自分から舌を差し入れ彼のものと絡める。
 決して軽くはない口づけをさんざんに繰り返して。
 それから顔を離すと、乱菊は荒い息を吐きながらも日番谷を睨みつけた。
「四番隊にも行きたくないって言うなら、私が手当てします。それでも嫌だって言うなら、今夜は絶対!指一本触れさせませんからね!」
 そう大声で宣言してやると、ようやく―――彼は抵抗を止めたのだった。








.
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ