Ash&Snow
□Ash&Snow 3
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黙りこんでしまった冬獅郎に、女はどこか寂しげな微笑みを向けた。
「・・・あなたは、人間にしては相当に霊力が高いみたいですけど。死神なんかと関わってもいいことないですよ。長生きしたいのなら、今日のことは忘れてください。」
冬獅郎の手をそっと外させて、女は今度こそ歩き出した。
冬獅郎は、その姿を困惑しながら眺めていたが。
何かに急かされるように駆け寄り、再び彼女の腕を捕らえていた。
「待ってくれ。」
懇願するように言葉を紡ぐと―――振り向いた女の顔が、何故か泣きそうに歪んだ。
「・・・・・・なんですか?」
「お前・・・名前は?」
何か言わなければ、と。
それだけが脳裏をよぎり、冬獅郎はついそう尋ねていた。
女の蒼い瞳が不安定に揺れる。
躊躇いがちに彼女が口を開こうとした――――――その瞬間。
「――――――伏せて!!」
彼女の叫び声と同時に。
ドォンっという激しい破壊音がその場に響き渡った。
思い切り突き飛ばされ、壁に強かに背中を打ちつけた冬獅郎は思わず顔をしかめるが。
爆風とともに視界に飛び込んできた光景に、冬獅郎は一瞬にしてその表情を凍りつかせた。
部屋の壁を打ち砕き、耳障りな咆哮を上げて。
巨大な、奇妙な仮面をつけた化け物がそこにはいた。
その姿は――――――冬獅郎が夢で垣間見るものに、ひどく酷似していて。
あれが、”虚”なのだと。
そして。
その虚の鋭い爪の先には、冬獅郎を突き飛ばしてくれた金の髪の女の姿があったのだ。
「な――――――!」
「く・・・っ!!」
女は、虚の爪に腹を貫かれながらも片手で刀を振るい、その腕を切り落とした。
虚が、甲高い声を上げて飛びずさる。
切り落とした腕とともに―――女の体が無造作に宙に放り出される。
冬獅郎は咄嗟に駆け寄り、その体を両腕で受け止めた。
「―――おい!お前!!」
冬獅郎の腕の中で、女がごふっと口から血を吐く。
「っ私のミス、です・・・っ、あなたに・・・気をとられて、気づくのに遅れました・・・!」
息も絶え絶えに、女は呟いた。
苦しげに顔を歪める彼女の姿に、冬獅郎はやるせない想いが胸中に広がっていくのを感じた。
腕の中で荒い息を吐く女の体は―――思っていたものよりもとても細く、驚くほど華奢だったのだ。
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