Ash&Snow

□Ash&Snow 3
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 ―――身の内の霊力を、全て奪い取られてしまった、と。
 乱菊は霞む意識の中でゆっくりと考えた。
 それは、半ば予想がついたことだった。
 あの少年が―――本当に、”彼”なのだというのなら。
 
 叶わない。
 抗う術(すべ)などない。
 自分など、足元にも及ばないのだ。

 結果、ほとんど抵抗することも出来ず、乱菊は己の霊力の全てを彼に明け渡してしまった。
 
 力なく壁にもたれながら乱菊は――――――呆然と、その姿を見つめた。
 漆黒の装束に身を包み、右手には長身の斬魄刀を持つ、彼を。

 ―――その、後ろ姿。
 十数年前まで、その背中を見つめて歩くのが当然だった。


 知らず、目元から熱い雫がこぼれ落ちる。

 再び見ることができるなど。
 彼に、また会えることがあるなど、考えたことすらなかったのに。

 それなのに―――今、乱菊の瞳に映るものは。
 あの頃と寸分の違いもない、積雪の大地を彷彿とさせる白銀の髪に、一対の宝石のような翡翠の眼差し。
 そして、その霊圧。


 ―――たいちょう、と。
 乱菊は声にならない声で、呟いた。






 日番谷冬獅郎。
 彼に従い、彼を支え―――命を懸けて彼を護ると、堅く誓ったはずだった。
 その誓いも約束も、とうの昔に失われて。

 あの日、失われたはずの―――自分にとって唯一絶対の存在であったはずの彼。

 その唯一である彼が、確かに今生きてこの場に立っていた。




 その瞳からとめどなく涙をこぼしながら。
 ただひたすらに―――その姿を見つめることしかできない乱菊の目の前で。

 日番谷冬獅郎は、一瞬にして虚の体を切り伏せたのだった。








To be continued...
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