Short Story

□Realize?
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「・・・ウチの隊長、最近どんどん背が伸びてきたでしょう?」
「そうですね。」
 七緒はあっさり頷いた。
「・・・七緒。」
 やっぱりぞんざいな態度の友人に、乱菊は恨みがましい目を向けるが。
「毎日のように地獄蝶まで飛ばして『ウチの隊長、今日は○○センチになったわー!』なんて報告されてたら、いい加減うんざりもします。」
 曲げようのない事実をきっぱり言われ、乱菊はうっと言葉に詰まった。
 小さかった日番谷の身長がぐんぐんと伸び始めたのは、ここ数年前からだった。
 その少し前に日番谷は卍解を完成させており、そのことが大きな要因になったのかはわからないが、その成長ぶりは目覚しいものだった。
 日に日に成長していく上司の姿に、乱菊が喜びと興奮を覚えないはずがなく。
 日番谷の成長していく毎日を、それこそ傍迷惑なほどに思いっきり楽しんでいた。


 楽しんでいた、のだが。
「と、とにかく・・・その頃からなの。」

 日番谷の身長が伸びるにつれ、彼の自分を見つめる眼差しにやけに艶めいた―――というか熱っぽいものが混ざるようになったのだと。
 乱菊は頬を真っ赤に染めた、本気で泣きそうな表情で告げた。

「あの人、自分の感情とか隠すの上手いから最初は気のせいだって、ずっと言い聞かせてたんだけど・・・。」
 本当に、最初は気のせいだとしか思わなかった。
 違和感を感じても、日番谷の態度はこれまでと全く変わらなかったし、そんな視線を感じるのは本当にホンの一瞬だけなのだ。
 だが、そんなことが何度も続けば、気づかないわけがない。

「・・・第一、隊長のことだもの、私が間違うはずないじゃない。」
 多分、他の人なら気づかなかっただろう。
 だが長年敬愛し、見守ってきた上司だ。
 他の誰が気づかなくても、自分だけは間違えない自信がある。






「はぁ、それはまた・・・なんというか。」
 七緒は目の前で、ただの少女のように初々しく頬を染める乱菊に、感嘆にも似た溜息をつく。
 ”ヘンな目”というのはそういうことか。
 しかも・・・長年この友人を近くで見てきたが、この女性(ひと)がここまで可愛らしく恥らっている様子など初めて見た。

 しかも、あの、生真面目さを絵に描いたような少年だった日番谷隊長が。
 意外だ、といえば意外なのだが。
 ・・・よく考えてみれば、そうでもないのかもしれない。

 それこそ、隊長になりたての頃から一心に乱菊の愛情をその身に受けていた彼なのだ。
 見た目が中身に追いつき始めて、ようやくそれを振り返るだけの余裕も出てきたということか。

「日番谷隊長も、成長してようやく乱菊さんの魅力に気づいたってことじゃないですか?喜べばいいじゃないですか。乱菊さん、ついこの間まで『たいちょってば私のこと全っ然、女として見てくれなーいっ』って叫んでたでしょう?」
「言ったけどっ!それとこれとは話が別っていうか!まさかこんなことになるとは思ってなかったって言うかっ!!」

 そう、まさかこんな日が来るなど夢にも思っていなかったのだ。
 日番谷が、自分のことを―――そういう目で見る日が来ようなどとは。

「それで、どうしたいんですか?乱菊さんは。まさかそれで日番谷隊長が嫌になったりとか・・・。」
「そんなわけないでしょっ!私が隊長のこと嫌いになるなんて天地がひっくり返ったってありえないわよっ!」
 大声できっぱりと否定した乱菊は、次は一転、ものすごく小さな声で・・・ただ、と呟いた。
「ただ、困るのよ、本気で困ってるのっ!」

 叫ぶと、乱菊は両手で顔を覆った。
「あ、あんな目で見られたら相手が隊長なのも忘れてドキってなっちゃうし、恥ずかしくてどんな態度でいたらいいのかわかんなくなっちゃうし、おかげで今までみたいに気軽に抱きついたりもできなくなっちゃったしっ!」


 ―――しかも今日なんて。

「今日なんて?」
 問い返されて、乱菊はうっと言葉に詰まった。
 さすがに、コレは―――話すのにだいぶ勇気がいった。






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