Short Story
□Realize?
3ページ/5ページ
今日の午後。
乱菊が自分の席で書類と戦っていると、例の如く眠気が襲ってきた。
最近は、乱菊の心を思い切りかき回しまくっている日番谷のせいでそんなことも少なかったのだが。
今日は隊首会で日番谷がいなかったこともあり―――気が緩んでしまったのだろう。
つい自分の机に突っ伏して居眠りをしてしまったのだ。
意識が浮上したのは、誰かの手がそっと自分に触れたときだった。
その優しい手はぎこちない動きで乱菊の髪を撫ぜていたが、しばらくしてそっと自分の体を抱き上げた。
―――その時点で大声で叫びそうになったのだが、それをものすごい精神力で耐えた自分を手放しで褒めてやりたい。
日番谷が軽々と自分の体を横抱きにしたことにも驚愕したが―――何より、彼がそんなことをしたのはこれがはじめてだったのだ。
そして。
日番谷は乱菊を抱き上げると、これ以上ないほど丁寧な―――慎重な動きで彼女の体をソファに横たえた。
まるで壊れ物でも扱うかのような優しい仕草に、寝たふりを決め込んでいた乱菊は、胸の奥で絶叫しまくっていた。
―――しかも。
ソファに下ろされ、乱菊は日番谷の手がゆっくり自分から離れていく感覚に、ようやくほっと息をついたのだが。
・・・いつまで経っても自分の傍から日番谷の気配が離れていかない。
日番谷が―――最近するようになった、心臓に悪すぎるあの甘い眼差しで自分を見つめていることは、目を開けずとも理解できてしまって。
言い方は悪いが、乱菊はそれこそ本気で日番谷に――――――視姦されている気分だった。
さらに、話はそれだけでは終わらない。
乱菊は今更引っ込みがつかなくなってしまって、とにかく必死に狸寝入りを決め込みその場をやり過ごそうとした・・・のだが。
事もあろうか、日番谷はそんな乱菊の行動をあざ笑うかのように―――彼女の唇に指を這わせてきたのだ。
その瞬間、乱菊は心の中で―――のた打ち回りながら、大声で日番谷の鉄の理性に呼びかけていた。
(ぎゃぁああああああああぁああああ!!たたたたた、たいちょー!何しようとしてるんですかぁ!!早まらないでくださいぃ〜〜〜〜っ!!)
彼の吐息が、口元に感じられた刹那―――乱菊は本気で死ぬかと思った。
結局。
咄嗟に、必死の精神力で寝返りを打つフリをして、日番谷から逃れたわけなのであるが・・・。
・・・あのとき、日番谷にそれ以上何かされていたら、とてもじゃないが寝たフリなど続けられなかっただろう。
ちなみに、その後。
ほとぼりが覚めた頃を見計らって乱菊は起き上がった。
そんな乱菊に対する日番谷の態度は、またもやいつもと変わらなかった。
「ようやくお目覚めか。もうしばらくしても起きねぇようだったら、本気で氷輪丸の錆にしてやるところだったぜ。」
と。
人の気も知らないでそんなことを言ってのける日番谷に、乱菊は怒りを通り越して本気で尊敬してしまいそうになった。
心の中はどうであれ、ここまで完璧に自分の所業を隠し通せるとは。
それでも、日番谷は起きた乱菊の様子が少しおかしいことにはすぐに気づいたようだった。
「どうした?顔色が優れないが・・・具合でも悪いのか?」
気遣うように聞いてくる上司に―――あなたのせいです!!!!と、言えるわけもなく。
「夢見が悪かったんです。」
とだけ告げて、その場をごまかした。
―――ようするに。
昼寝をしたことで、返ってものすごく精神的に疲れてしまったわけなのである。
.