Lost Heaven

□Lost Heaven 7
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 呆気に取られた様子で日番谷を見つめていた京楽は、しばらく間を置いた後―――やれやれと言った様子で苦笑した。
「・・・君たちがそんな関係だったとは、さすがの僕も気づかなかったなぁ。」

 当然だった。
 副官を愛人として囲っているなど、他人に言えた話ではなかったし―――二人の関係を神経質なまでに隠そうとしていたのは、むしろ乱菊の方だったような気がする。

「なるほどね、それでわかったよ。―――乱菊ちゃんが、”死んだ”理由が。」
 納得したようなその声音に、日番谷は緩慢な動きで京楽を見た。
 
「・・・どういうことだ?」
「桃ちゃんさ。」
 京楽は日番谷の傍に歩み寄ると、机の上によっと腰掛けた。
「あの当時、誰が見てもあの子の支えは君一人だけだった。恋愛感情であろうがあるまいが、ね。そんなときに―――乱菊ちゃんが君の子どもを妊娠したと知られたら、どうなっていたと思う?間違いなく、あの子の心は完全に壊れていただろうね。」

 日番谷に、思い切り依存していたあの頃の少女。
 日番谷が一番に自分のことを想ってくれているということだけが、当時の雛森を支えていたのだ、と京楽は言う。
 だから―――乱菊は、その事実を必死で隠そうとしたのだろう、と。

 そんなことはない、と否定することはできなかった。
 日番谷にも、あの頃の雛森がどれほど己を見失っていたかはよく理解できていた。
 事あるごとに取り乱し―――日番谷を呼びつけその腕にすがり付いてくる彼女の様子を、その只中で見ていたのだから。

「かといって、死神を除隊するのもそう簡単にはいかない。時間がかかるし、間違いなくやめる前に君にバレる。失踪するのも論外だ。瀞霊廷の追っ手に追われながら子どもを生むなんてできるはずもないからね。―――考えた結果が、アレだったんだろうね。」

 自分の存在を”殺す”こと。
 それがもっとも早く、確実な方法だったのだと。

 それでも―――日番谷は納得できずに、悲痛に顔を歪めた。
「・・・雛森のために、あいつが犠牲になったって言うのか?」
「違うよ、日番谷くん。桃ちゃんじゃない。・・・・・・君のためだろう?」
 彼女にとって、一番大切なのは君だったのだから。
 京楽の、鋭い指摘に―――日番谷は硬直した。



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