Ash&Snow

□Ash&Snow 8
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 重い気持ちで教室に戻ると―――見事なまでに全員の視線が乱菊と冬獅郎に集まる。
 予想通り過ぎるその反応に、冬獅郎は心の内で悪態をつきながら自分の席に戻った。
 冬獅郎に話しかけてくる強靭な心の持ち主は―――いない。
 もちろんそれは、かねてからの冬獅郎の人となりと、たった今彼から放出されまくっている絶対零度のオーラがさせるものだった。

 その代わりに、一気に乱菊の元に人が集まっていく。
「ま、松本さんっ、え、えぇっと、私、小川みちるって言います。これからよろしくねっ?」
「あら、こっちこそ。よろしくね。」
「こんな時期に転校してくるなんて珍しいですよね?」
「うぅ〜ん、まぁ、のっぴきならない家庭の事情があってねぇ。」
「え、じゃあ日番谷を追いかけてってのは?」
「やだ。それも本当よ〜?」

 ぎゃあぎゃあと騒ぎ始めた背後を、冬獅郎は半ば開き直りに近い形で放置した。
 余計なことは言うなと先ほど釘を挿しておいたことだし―――それ以外に彼女が何か突拍子もない発言をしたところで、もはや止めても無駄だろう。
 自分に纏わりついてこない分、まだマシだ。
 そう、冬獅郎が思っていると。

「そういえば、私の席ってどこかしら。」
「あぁ、うん。一番後ろのあの席だよ。今ちょうど空いてるから。」
「えぇーっ、私、日番谷くんの隣の席がいいなーっ!」
 そんな―――頭痛がするような声が聞こえてきた。

 本気か、あの女。
 人目を憚らないその行動は、もはや驚嘆に値する。

 いっせいに、冬獅郎と乱菊に教室中の視線が集中した。
 それを気にも止めずに―――ひょこひょこと乱菊がこちらに近寄ってくる。
「ね、ね!キミ、代わってくれない?席。」
 乱菊は、冬獅郎の隣の席の男子生徒に向かってそう告げた。
 彼女ににっこりと顔を覗き込まれ、冬獅郎の隣の席の男子が一気にその顔を赤く染め上げる。
「うぇえ!?」
「ダメ?」
 乱菊は小首を傾げ、困ったようにその生徒を見つめた。
 ・・・自分の武器が何であるか充分にわかっていそうなその振る舞いに、冬獅郎の怒りの沸点が再び急上昇する。

 何なんだ、この我が侭女は。


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