Ash&Snow
□Ash&Snow 8
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「―――松本。」
冬獅郎は頬杖を付いたまま、顔を上げようともせずに吐き捨てる形で言った。
「てめぇの我が侭で他人に迷惑かけんな。」
それは相当に相応な、常識的な文句だったのだが。
意外なことに―――乱菊はその言葉に神妙に居住まいを正した。
「・・・はい。すみません。」
瞬く間にしゅんとしてしまった乱菊に、冬獅郎は目を見開き―――内心で動揺した。
彼女のことだから、突拍子もない理屈を並び立てて反論してくるかと思ったのに。
いや、待て。
騙されるな。
さっきも似たようなことがあっただろう。
冬獅郎はそう、自分に言い聞かせた。
放っておけばいい。
自分は間違ったことなど何一つ言ってはいないのだから。
そうは思ってみても、視界の端に映る寂しげな様子の乱菊にどうにも心は動かされ。
うなだれたまま身を翻そうとする彼女に―――半ば無意識で冬獅郎は口を開いていた。
「―――大隈。」
「へっ!!?」
冬獅郎に話しかけられた男子生徒は、乱菊に話しかけられたとき以上に目を白黒とさせた。
それも当然で。
冬獅郎が自分からクラスメイトに話しかけるなど―――一護にしたことを除けばほとんど初めてだったのだから。
だが、冬獅郎はそんな男子生徒の驚きを軽く流して。
「・・・悪いがこいつと席を代わってやってくれるか。」
用件だけを口にしていた。
「あっ・・・あぁ、別に構わないけど・・・。」
「悪りぃな。」
溜め息混じりにそう言うと―――乱菊が驚いたように振り返った。
「日番谷くん・・・っ!」
顔の前で両手を合わせ感動に打ち震える彼女を一瞥して、冬獅郎は先手を打った。
「ここで抱きついたら、今後一切てめぇの面倒は見ねぇからな。」
「はい・・・っ、愛してます・・・!!」
「―――そういうことも言わんでいい!!」
腹立ち紛れに怒鳴る冬獅郎は―――一護や織姫を含めた全てのクラスメイトが、その一部始終を食い入るように見つめていたことに、ついぞ気づくことはなかったのである。
To be continued...